悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

かんなり太郎ドンドコの語り

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雷の光ととどろきは、地上に何をもたらすのでしょう。

五穀豊穣を?生命の芽生えを?遺伝子の変異を?

それとも、私たちに天の怒りの恐ろしさを、思い知らせようとしているのかしら?・

・・・

新潟のむかし話2「かんなりさまの子ども」を読んだ人々は、みな、口々に言うのだった。

「かんなりさまの子どもって、天から落ちてしまったなんて、ドジね。どうして落こちちゃったのかしら。」

「あんにゃさの家に生まれた子は、人間なの?かんなりさまの子なの?頭には角が出て、口からは牙が出てきたんでしょ。」

「あの子は、鐘つき堂の鬼に、『おらに顔見せれや』って言ったでしょ。どうして、鬼の顔をみたがったの?」

そこで、私は、かんなりの子ども、太郎に、取材を試みた。

以下は、かんなり太郎の陳述である。

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おいらは、かんなり太郎、ドンドコ。いっつも、かんなりおやじ殿のお供じゃった。

太鼓を持って、雲に乗って出かけた。

「よし、太郎。よーく、見ておくのじゃ。」

おやじ殿は言った。

「田んぼの稲が実ってきたぞ。今こそ、稲妻を光らすのじゃ。そうすると、穂が黄金色(こがねいろ)に変わるぞ。そーれ、ピカピカピカ・・・」

まばゆい光が田んぼに降り注いた。

「太郎、太鼓を打ち鳴らせ。」

おいらは、あわてて、太鼓をたたいた。

ドドドドドド、ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ・・・

田んぼの稲は光を浴びて揺れ、太鼓の音に震え、そして、青い穂が黄金色(こがねいろろ)になった。

田んぼ一面が黄金色(こがねいろ)に変わった。

「そーれ、次にいくぞ。そーれ、ピカピカピカ・・」

おやじ殿は次の田んぼにも、稲妻を光らせた。

「太郎、太鼓じゃ。」

おいらは、あわてて、太鼓を打ち鳴らした。

ドドドドドドド、ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ・・・

稲は揺れて、青い穂が黄金色(こがねいろ)に変わった。

「よーし、一等米じゃ、コシヒカリじゃ。」

「おやじ殿、お見事、お見事、ドンドコ、ドンドコ。」

「わしの稲光で、コシヒカリになるのじゃ。ワッハハハー。」

そうやって、おやじ殿は次々に稲光を降り注ぎ、稲をコシヒカリに変えておったのじゃ。

おいらは、地上の田んぼを眺めて感心してしまった。

「きれいな黄金(おうごん)の敷物を敷き詰めたようでございますな、おやじ殿、ドンドコ。」

おいらは、あんまりきれいなので見とれてしまった。そして、もっとよく見ようと、おいらの雲を地上に近づけた。かんなりさまの雷に驚いて、村人も、犬も猫も走り出したり、隠れたりしていた。

「おや、あれはなんだろう?ドンドコ。」

人や犬や猫から離れて、田んぼの真ん中を走っていくあれは、けものか?人か?

おいらは、よーく見ようと、さらに雲を地上に近づけたのじゃ。

「けもののような、ドンドコ。人のような、ドンドコ。鬼か?」

髪を振り乱して、顔は見えなかった。

しかし、その時、おいらのへそが、うなり出した。

「かかさま、かかさま。」

「何だって、かかさまなのか?あれが、かかさまなのか?ドドドン。」

おいらは、もっと雲を地上に近づけた。

「お顔を見せてくだされ、お顔を。おいらのかかさまなのか?ドンドコ、ドンドン。」

その時じゃ、

「ハッ、ハッ、ハックショーン。」

なんと天狗どんのくしゃみじゃった。(パスティーシュ3弾「天狗どんわんの語り」参照)

おいらは、そのくしゃみの風にあおられ、

「おっとっとと・・、ドドドン・・」

ドデーン。不覚にも、太鼓もろとも、地上に転げ落ちてしまったのじゃ。

「ドンドコドン、なんということじゃあー。」

稲妻を光らせるおやじ殿のお供をしなければならなかったのに、地上に落ちてしまった。となると、こんどはおいらの頭の上におやじ殿の雷が落とされる。

「はやく謝りに行かなければ、ドンドコ。」

しかし、さっき見たもの、けもののような、人のような、鬼のような、あれは、いったい何だったのじゃ?おいらのかかさまだったのか?

「かかさまじゃ、かかさまじゃ。」

おいらの腹の上でへそが、また、わめいた。

おいらのかかさまは、おやじ殿の怒りにふれて、てんじゅく、かんなり国を追い出されたと聞いた。そして地上で鬼になったとも。

さっきから、おいらのへそは「かかさま、かかさま」と叫び続けておるぞ。あれが、おいらのかかさまだったのか。かかさまのお顔が見たい。

おいらは地上に落ちてしまったから、おやじ殿に、怒られる。

「おやじ殿は、もはや、おいらが、かんなりさまになることをお許しにはならないじゃろう、ドンドン、ドコドコ。」

よし、それならば、おやじ殿にこの太鼓をお返ししてから、地上にもどって、かかさまを探しにいこう。

「かかさまあー。あいたいよー、ドンドコ、ドコ。」

ちょうど、そこに村のあんにゃさが現れた。おいらは、あんにゃさに手伝ってもらって、べと色の雲を作った。あんにゃさには男の子を授けると約束した。そして、べと色の雲に乗って、太鼓とともに、てんじゅくのかんなりおやじ殿の元にもどったのじゃ。

「たわけもの!なんということじゃ、太郎。おまえは、かんなり家の跡取りではないか。修行の身で軽はずみな。地上の猫を見ていて、雲から落っこちただと。許せん。ひとたび地上の土がついた身では、もう稲妻を光らすことはできぬのじゃ、おまえは、かんなりさまになることはできぬ。おまえは稲光で、コシヒカリは作れん。こしいぶき新之助も作れん。土がついたからには、おまえは、これから、地上で働くしか道はないぞ。ピッカリ。」

おやじ殿の目にピッカリと涙が光り、おいらの頭の上におやじ殿の雷が落ちた。

 

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そして、あっという間に、おいらは、地上でおいらを助けてくれたあんにゃの、つれあいのあねさの腹に入っていた。そうして、その家の子どもになった。子どものなかったあんにゃさとあねさは、

「かんなりさまがお授けになった子どもだ。」

と言って、おいらを大事に育ててくれた。

ただ、おいらは、出べそが、いくつになっても治らなかった。あねさは、

「産婆さが下手くそで、へその緒を長く切ったから、出べそになったんだ。」

と言っていた。だども、あんにゃさは、

「かんなりさまが、子どもを取りもどすときの目じるしに、出べそをつけておいたんじゃ。」

と言った。

「かんなりさまがおまえを取りもどしに来るかもしれないのじゃ。決して、腹を出して、へそを見せるんじゃないぞ。」

だから、いっつも、おいらは、雷が鳴ると、出べそを押さえて隠していた。

おいらが5つになると、寺に奉公に出た。おいらは寺で学問を習った。

そんなある日、お寺の鐘つき堂に、鬼が出るとうわさになった。

おいらは、かんなりおやじ殿のお供をして、雷落としの太鼓をたたいていたことを思い出した。稲妻が光り、太鼓が打ち鳴らされると、田んぼは黄金色(こがねいろ)に変わるのじゃった。そしてその黄金色(こがねいろ)の田んぼの中を走る、けものか、人か、鬼か?その姿を見たとき、おいらのへそが叫び出したのじゃった、「かかさま、かかさま」と。

そうじゃ、おいらはかかさまを探しに、てんじゅく、かんなり国から、地上に降りてきたのじゃった。かかさまを探さねば、ドンドコ、ドコ。

「おいらが、鐘つき堂に行ってみよう。」

「おまえみたいに、めんこい子がか?」

寺の者はみな、あきれた。それでも年取った和尚様は、

「じゃあ、おまえが行って鐘をついて来い。」

といわっしゃった。

和尚様の声を聞いたら、おいらは急に元気が出た。そして、頭の真ん中に、にゅっと角が生えてきた、ドンドコ。

「行ってまいります、ドンドコ。」

鐘つき堂は静まり返っていた。おいらは鐘つきの時刻じゃったから、鐘をつき始めた。

するとお堂の隅で、うごめきだしたものがあった。

「鬼か?ドンドコ。」

おいらは聞いた。するとおいらの腹の出べそが、

「かかさま、かかさま。」と答えた。

「かかさまなのか?鬼なのか?ドンドコ。」

お堂の隅にいるものは返事をしなかった。

「かかさまなら、お顔を見せてくれ、ドンドコ。」

すると、お堂の隅から声がした。

「お前のへそを見せろ、へそを見せろ。」

「あっ、やっぱり、おいらのかかさまなんだ、ドンドコ、ドンドコ。」

と思ったそのとき、天から稲妻が光った。ピッカリ、ピッカリ。鋭い光がお堂に満ちた。おいらは、思わず、出べそを押さえた。かんなりおやじ殿がお怒りじゃった。

「かかあ、出ていけー。おまえは、鬼じゃー。」

恐ろしい声が響き渡った。鬼の姿のかかさまは、あわてて逃げて行った。

おいらは、あまりの怖さに、体を震わせ、気がつくと、しっかりと出べそを握りしめていた。鬼のかかさまが出て行ったあと、お堂はまた、静まり返った。そっと手を開くと、手の中に出べそがもげていた。おやじ殿の怒りにふれて、おいらの出べそが、もげたのだろうか?

和尚様はもげた出べそをねんごろに供養してくれた。

鬼の姿のかかさまは、それから、村に現れることはなかった。

おいらは出べそがなくなったので、雷が鳴っても平気になった。

おいらは寺で修業を続けた。すると、おいらの頭はだんだん大きくなり、あたまのてっぺんの角は隠れて見えなくなった。

おいらは、村の田んぼで働き、いい米ができた。

和尚様や、あんにゃさやあねさも、喜んでくれた。

 

それからというもの、村では、米作りがますます盛んになり、栄えた。

ただ、雷が鳴ると、村人はへそをとられると言って怖がった。みなで、へそを押さえて体を丸め、雷が止むのを祈るという。

今でも、子どもが、お腹を出して寝ていると、「雷様におへそをとられるぞ」と言われるよね。

みなさんも、お腹を出さないで、温かくして寝てくださいね。

 おしまい。

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令和2年霜月 深まる紅葉の季節へ

 

切り絵 悠久城絵師 きらら こと 酒井晃

 

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種本収録   2020年11月23日

「かんなりさまの子ども」

新潟のむかし話2ふしぎさにひきこまれる話

新潟県学校図書館協議会編2006年

https://www.youtube.com/watch?v=-f1c8tJUKzo