悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

パスティーシュ第6弾「ネコ巫女ミーコの語り」

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 ネコは、神秘的な目をしている。きらきらと輝く その目で何を見ているの。何を考えているのかしら。黙ってあなたの膝にのってくるかと思うと、プイと勝手に外に出かけてしまったり、気まぐれなネコ。コタツで眠ってばかりいることも・・・。

眠っている間は、ネコも夢を見ているの?それは、どんな夢なの?

・・・

新潟のむかし話2「十二支の始まり」を読んだ人々は、みな、口々に言うのだった。

「十二支にネコが入っていないのは、なんか、やっぱり、へんじゃない?」

「ネコがネズミに騙されたなんて。ネコよりネズミのほうが賢いってことなの?」

「ネコは神さまの集まりに遅れてきて、『顔を洗ってこい』って門番にもばかにされて、悔しくないの?ネコは怒らないの・・?」

そこで、私は、ネコのミーコに取材を試みた。以下は、ネコ巫女ミーコの陳述である。

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 わらわはネコ巫女ミーコじゃ、ミャーオ。神さまにお仕えしておるのじゃ。

この暮れに神さまは、動物たちを集めて、12匹の大将を選んで、1年ずつ、人間の世界を守らせることにすると、お触れを出された、ミャーオ。

わらわは、急に忙しくなった。神さまの望む12匹の者たちをみな、12日に集めなければならぬのじゃ。

道を歩いて行くと、ネズミチュウチュウに出会った。

「ネズミどん、神さまが、大将を選ぶ日は、いつだったいね、ミャーオ」

と聞いてみた。

「そら、あさっての十三日だわ、チュウ、チュウ」

「なに?あさっての十三日だと?ミャオミャオ」

それじゃ一日遅いじゃろ。粗忽ものの慌てもののチョロチョロネズミ。今、教えても、どうせ、またすぐ忘れてしまうのじゃ。そうだ、ネズミチュウチュウの家の下に住む、ウシどんから一緒に連れて行ってもらえばいいにゃあ、ミャーオ。いい考えじゃ。

ところで、ウシどんは、ノッソリ、ノッソリ歩くのじゃった。のんびりしとったら、モーすぐに日が暮れて間に合わなくなる、ミャ―オ。

よし、ウシどんを早く起こしてやろう。

わらわは家に帰って眠った。ふがふがふぁーあ、ミャアー。

わらわは、ウシどんの夢の中に入って、鬼婆になった、ミャーオ。

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「むにゃむにゃ、モウー。おれは鯖を背中に積んで、峠の山道をノッソリ、ノッソリ登っていったぞ。もう日が暮れた。すると後ろから鬼婆が追いかけてきた。鬼婆はおれの背中の鯖を取って食った。そして、今度は、おれの腹にかぶりついてきた。ガキッ。モウ、モウー。怖いー。」(新潟のむかし話2「鯖売りと鬼婆」参照)

ウシどんは、モウーと叫んで飛び起きた。そして、まだ、真夜中だったが、神さまの集まりに出かける支度を始めたのじゃった。

モウ、モウというウシどんの鳴き声を聞いて、天井に住むネズミチュウチュウも起きてきた。

「ウシどん、夜中にどうしたのじゃ?チュウ、チュウ」

「いや、おれな。鬼婆に追いかけられた夢みたんじゃ。おっかねーかった。神さまのとけぇ行くのに、ネズミどん、おまえも一緒にいこまいか。そいで、もし、鬼婆が出たら、おまえ、鬼婆をかじってくんないか。おれ、鬼婆おっかないから、モウーモウ」

ウシどんはネズミチュウチュウを背中に乗せて、夜中に出発したのじゃ。

お月様が出ていた。わらわは、お月様に、ウシどんとネズミをずっと照らしておいてくれるように頼んだ。鬼婆は、月夜には出てこれないのじゃ。

よしよし、これでよし、ミャオ、ミャオ。

ネズミどん、ウシどんの背中から、落ちるな、ミャーオ。

 

ノッソリ、ノッソリのウシどんは、一生懸命、歩いた。鬼婆も出ないし、ネズミは、ウシどんの背中で揺すられて、いい気持ちでぐっすり眠っておった。

ほれ、ウシどん、神さまの社じゃ、ヤットコスットコ着いた、ミャア。

「おれが一番のりじゃ、モウー。」

ウシどんはドスンと止まった。すると、その拍子にウシどんの背中で寝ていたネズミが、つんのめって、ころげ落ちたのじゃった。

「いたたた、チュウ」

目を覚ましたところは、なんと神さまの足元じゃった。

「一番ネズミ。」

神さまのお声が響いた。

「2番ウシ。」

ネズミチュウチュウの分も、ご苦労さまじゃった、ミャオ。

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そのあと、足の速いトラが3番で入った。ウサギもぴょんぴょん飛んで4番。

足が4本あれば速い、ミャア。

 

ところで、足のないヘビは、どうしておるかなと見ると、クネクネと地面をはっていた。これでは間にあわぬ、ミャア。わらわは、タツどんに頼んで、クネクネへビを乗せてもらった。タツどんは、ゆっくり大空を飛んで、5番で入った。そして、タツどんの背中から、クネクネヘビも地上に降りてきて、6番になった、ミャア。

 

続いて、息荒く走り込んできたのが、ウマどん。7番。

走り方もかわいいヒツジは、8番。

よーし、みんな、いいぞー。ミャーオ。

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さて、そのあとは?サルは、どうしたかな?お調子者のサルは、すぐに、はめをはずすぞ。わらわは、サルを見に行った、ミャア。

「キャ、キャ、キャキャ、ニワトリどん、きれいな羽だね。赤いトサカもきれいだね。」

サルは、ニワトリに話しかけていた。

「おーや、サルどんは、おいどんのトサカがほしいのかい?ケコケコ」

「ああ、ほしい、ほしいな。きれいな赤いトサカ、冠みたいだ。ほしいよ、キャキャ」

「トサカは、頭にくっついていて、とれないから、あげられないよ、ケコケコ」

「おいらの頭にもトサカがほしいよお。大将になったら冠みたいなトサカがいるよ。ニワトリどんのトサカ、ちょっと貸してくれよ、キャキャ」

「トサカは脱げないからだーめ、ケコケコ」

「ちょっとでいいから、さあ、脱いでおくれよ、キャキャ」

「じゃあ、こうしてあげるよ、コココココケコ」

ニワトリはサルの頭に、さっと飛び乗った。

「ほーら、サルどんにもトサカができた、ココココケコ」

「キャキャ、いたたた・・重いよー。」

「ココココケコケコ」

サルとニワトリは、いつまでも道端で話続けておる、ミャア。神さまのところに行くのはどうなったのじゃ?ミャーオ。

よし。ここは、イヌどんに追いかけさせるのじゃ。わらわは、イヌどんをけしかけた、ミャオ、ミャオ。

「ワオ~、サルが、ニワトリをいじめておるぞ、ワンワン。待て、待てー。」

イヌどんは、勢いよく走り始めた。

サルは、ニワトリを頭にかぶったまま、逃げ出した。

ニワトリはサルの頭の上で、神さまの社を指さした。

「サルどん、あっちじゃ、ケコケコ」

サルは、

「重いよ、重いよ。キャッキャキャ」

と言いながら走った。その後ろをイヌが

「ワンワン、待て、待てー。」

やれやれ、にぎやかじゃ。ともかく、3匹は神さまの社に向かった。

お調子者のサルは、頭にニワトリをかぶったまま、必死に走り続けた。

それを追うイヌどん。さすがに速い。とうとう追いつき、サルの尻にかぶりついた。

「ワンワン、ガキッ。」

「キャキャ、ギャー。いたいー。」

サルは、思わずのけぞった。その拍子に、ニワトリは、サルの頭から脱げた。地面に転がり落ちて、

「ココココ、ケコ、ケコ、ドコ?」

そこは、神さまの御前じゃった。

「9番サル、10番トリ、11番イヌ。」

神さまのお声が響いた。

 

あれっ、十二匹目がまだ来ていない、ミャオ。

 

道端の畑で、イノシシが芋をほり散らかしていた。

「イノシシどん、何していなさる、ミャーオ」

「見ればわかるじゃろ、朝ごはんじゃ、ブー、ブー」

イノシシどんは、わき目もふらず、芋に食らいついた。

「今年の芋のできは、まずまずじゃ、ブー」

「イノシシどん、イノシシどん。神さまの集まりはどうなったのじゃ、ミャア」

「うんまい、うんまい。ブー、ブー」

芋に夢中で、わらわが声をかけても、耳を貸さぬのじゃった。ええい、食いしんぼうイノシシめ。わらわは、イノシシブーブーが食べている芋の中に、唐辛子を混ぜてやった。イノシシは辛いのが苦手じゃ、ミャオー。

「ぎゃあー、辛い、辛い。ブー、ブー。なんだ、この芋は、こんな辛い芋はないぞ。今年の芋は不出来じゃ、ブッ、ブー」

断末魔の叫びをあげ、口の中のものを吐き出した。

「ぺっぺ、ぺっぺ、ブッブー」

「イノシシどん、そんなまずい芋より、神さまの社に行きなされ。大将に入れば、神さまが、おいしい、おいしい正月のごちそうをくださるぞ、ミャーア」

「おお、そうだ。おらは神さまのところに行く途中だったのじゃっ。こんな、辛い芋、いつまでも食ってらんないぞ、ブー。それ、神さまのところに行くぞ。ブブー」

神さまの社、目指して、まっしぐら。走り出した、ミャー。

 

神さまは言いなさった。

「みなの者。よう集まったのう。ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ、タツ、ヘビ、ウマ、ヒツジ、サル、トリ、イヌ、これで十一匹。さて、十二匹目は?」

そこへ、飛び込んできたのがイノシシじゃった。

「ブブ、ブー。」

「十二匹目は、イノシシじゃ。これで、大将の十二匹が全部そろった。めでたし、めでたし。ワハハハー。」

神さまの笑い声が響いた。

 

次の日、わらわは神さまの社の前を散歩していた。すると門番が声をかけた。

「神さまが、十二匹の大将を選ぶ日は、きんなだったねか。今ごろ来ても、もう、終わったがね。」

「ミャー」

門番は、わらわが神さまの巫女じゃと知らぬようじゃのう。

わらわは神さまの巫女、ネコ巫女ミーコなるぞ、ミャーオ。

そうは見えぬのか?

もっと、巫女らしく、いとしげにしなければならぬ、ミャア。

わらわは家に帰って、ツバキをつけて顔を洗って、きれいにした。ミャーオー。

 

それからというもの、十二支がめぐり、めぐり、人々の暮らしには、その年年の違いが表れ、その年年の変化がみられ、時は、一層、深く刻まれ、人々の歴史が編まれるようになっていった。

一方、ネコたちはといえば、相変わらず、人々の日々の傍らにいて、その長い惰眠をむさぼり続けていたということだ。

 

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令和2年師走 冴えわたる月の夜に

 

切り絵 悠久城絵師 きらら こと 酒井晃

 

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種本収録   2020年12月14日

「十二支の始まり」

新潟のむかし話2 おかしさにおなかをかかえる話

新潟県学校図書館協議会編2006年

https://www.youtube.com/watch?v=6pVChyxd034