越後おとぎ話 第30話 「泣き虫めそ子の語り」はじまり、はじまり
新潟のむかし話2000年「はなたれ小僧」のお話。知っていますか?
こんなお話です。
貧乏なじいさとばあさは、なかよく暮らしていました。年やのごちそうや正月の餅を買うために、じいさが、山の松を切って、町に売りに行きました。でも、いっこうに売れませんでした。しかたなく、じいさは、松を竜宮の乙姫さまにさし上げることにしました。橋の上から川の中へ松を投げ込むと、竜宮に案内されました。そして、いっぱいごちそうになり、おみやげに、なんでも頼むとほしいものを出してくれる、はなたれ小僧をもらいました。毎日三べん、えびなますを食べさせると、米も塩鮭も、いい着物もいい家も、田んぼも畑も出してくれました。そして、じいさとばあさは、身上持ちになって、いい暮らしをするようになると、小僧が見苦しくて嫌になり、出ていくようにと言いました。小僧がいなくなると、小僧が出してくれたものも、あっという間に消えてなくなってしまいました。
というお話。
欲ばりやおごりがあると、いい暮らしは続きませんね。
では、拾われたのが「泣き虫めそ子」だと、どうなるでしょうか?
泣き虫めそ子の語り
あたしの名前は、虹子。
虹子は、おじじがつけた名前じゃ。
んだども、村のしょは、あたしのこと、泣き虫めそ子と呼んでいたんだよ。
おばばから聞いた話じゃ。
ある日、おじじが、山に芝刈りに行った帰り道のことじゃった。
雨が降り出してきた。おじじは、橋の下で雨宿りしようと思ったんだと。すると、どこからか、ねこの鳴き声が聞こえたんだと。おじじは、ねこはどこにいるんだーと思って、鳴き声のする方にいってみた。そしたら、橋の下で雨宿りするように、ぼろきれに包まれた赤ん坊が寝かされていたんだと。弱々しい泣き声じゃった。おじじは、かわいそげだと思って、赤ん坊を抱きあげた。
「おお、よしよし。」
すると、赤ん坊は大きな声で泣き出した。
おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー。
おじじは、たまげてしもて、また、
「おお、よしよし。」
と、赤ん坊を揺すった。赤ん坊は、涙をこぼしていたと。
おじじは、赤ん坊の涙をみると、自分も涙が出てきた。そうして、おじじは、そのまま赤ん坊を抱いて、揺すっていた。
「おお、いい子だ、いい子だ。」
だんだん、赤ん坊のほっぺたは赤みが出てきて、そのうち、おじじの腕の中で、泣きやんだ。
「いい子だ、いい子だ。いっしょにうちに帰ろう。」
おじじは、目をほそめた。
もう、雨はやんでいた。
赤ん坊をかかえて、おじじが、歩き出した時、橋のたもとから大きな虹が出ていた。
そんで、おじじは、あたしを家に連れて帰って、おばばに、
「ほーれ、虹子だ。」
と言って、あたしを見せたんだと。
その日から、あたしは、おじじとおばばのうちの子になった。
おじじとおばばのうちで、あたしは大きくなった。
けど、あたしは近所の子にいじめられた。みんな、あたしを見ると、寄ってたかって、
「親なしっ子だ。橋の下から拾われてきた。やーい、やーい。」
あたしは、めそめそ泣いた。
すると、ますます、
「泣き虫めそ子だ、やーい、やーい。」
と、はやしたてられた。
あるとき、あたしは、おばばに聞いてみた。おばばは話してくれた。
そうか、そうなんだ。
やっぱり、あたしは橋の下から拾われてきた子だったんだ。おじじとおばばは、あたしの本当の親じゃないんだ。そう思うと、あたしは涙が出た。あたしは、ひとりで泣いていた。めそめそ泣いていると、
「わー、雨だ。雨だ。虹子、早く、洗たくものを取り込んでおくれ。」
おばばが、あわてて奥から声をかけてきた。
あたしは、急いで洗たくものを取り込んだ。そうしているうちに、あたしは泣きやんでいた。
「なあんだ。もう、雨があがったよ。虹子の虹があがっているよ。」
おばばが、空を見上げてつぶやいていた。
ある年の夏。
この村も、隣の村も、そのまた隣の村も、飢饉だった。日照り続きで田畑は枯れ、食べる物はなかった。村をあげての雨ごいの踊りも役にたたなかった。このうえは、山の龍に人身御供を差し出して、雨を降らしてもらうしかないと、村の長らが相談した。
どの家の娘を差し出すんだろう?
「大変だ。うちの屋根を見てみろ。」
おじじが叫んだ。
おじじが指さす方を見ると、それは白羽の矢だった。だれが放ったんだ?
あたしが橋の下から拾われてきた子だから、あたしが選ばれたんだろうか。
おばばは泣き出した。おじじも泣いていた。
あたしは龍のところに行くのは嫌だった。ずっと、おじじとおばばと暮らしていたい。あたしは、泣いた。声をかぎりに泣いた。
するといきなり、雷がとどろき出し、大粒の雨が降り出した。あたしは、その日の夜になっても一晩中泣いていた。雨は、一昼夜、降り続いた。
そうして、あたしは泣きつかれて眠ってしまった。
次の日、ひび割れた大地は雨の恵みで潤っていた。おじじと、おばばが、
「虹子、もうだいじょうぶだ。雨が降った。おまえは龍のとこに、行かなくていい。」
そう言って、あたしの顔をのぞきこんだ。あたしたち3人は、にっこりして空を見上げた。
山のたもとから大きな虹が出ていた。
村のしょは、
「泣き虫めそ子が、大雨降らせた。」
と、大喜びしていた。みなで虹を見上げて手をあわせ、涙を流した。
その後は、村では大きな飢饉はなかった。
それでも、毎年、夏は、暑くて、雨が少なかったから、
「めそ子泣かして、雨、降らせ。そーれ、めそめそ。」
「めそ子泣かして、雨、降らせ。そーれ、めそめそ。」
と、村のしょは、あたしに雨ごいしたんだ。
だども、いっくら雨降らせろと言われたって、あたしは、山の龍のとこに嫁に行ったわけでもないんだし、龍みたいに、そんなに思うように雨降らせたり、できっこないじゃないか。
ところが、なんと・・・不思議なことに、あたしが泣かなくても、村のしょが、
「めそ子泣かして、雨、降らせ。そーれ、めそめそ。」
「めそ子泣かして、雨、降らせ。そーれ、めそめそ。」
と唱えると、雨は降ってきたんだ。
「めそ子の雨だ。雨が降ったぞ。」
「めそ子の、めそめそ雨だ。降った。降った。」
村のしょは、めそめそ雨が降ると、ほっとした。雷が鳴って人を怖がらせることもないし、大水になって、村のしょを困らすこともなかった。村のしょは、めそめそ雨でちょうどいいと言っていた。
そして、稲が実って、秋には、いい米ができた。
あたしは、いつのまにか、泣き虫ではなくなっていた。いつもにっこり、おじじとおばばと、幸せに暮らした。
暑い夏、寒い冬、暑い夏、寒い冬・・・が繰り返されて、
令和になって何年か経った。
大手大橋に向かう通りに面して、三体の地蔵様が建った。
地蔵様は、川向こうの空を見上げて、なかよくにっこりと微笑んでいた。
それはその昔、おじじとおばばと虹子が、空にかかった虹を見て、にっこりしていた姿に、よう似ていた。
おしまい
令和6年 元日 雪はさほどでないが、地面が震えた
本作品
越後おとぎ話第30話 「泣き虫めそ子の語り」
箱庭劇場 2024年3月4日収録
作・朗読 楯よう子
絵 きらら/須崎三十(テクノポリスデザイン)
出演
虹子(泣き虫めそ子): 京人形
おじじ: 飛騨さるぼぼ
おばば: 干支ネズミ
村のしょ: Muggsie made in Korea
地蔵様:平和地蔵 令和5年 徳聖寺建立
種本 「はなたれ小僧」 新潟のむかし話 不思議さにひきこまれる話
朗読動画収録 2020年3月28日収録
ブログ 「今こそ、よだれ力・はなたれ力」
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令和2年卯月 満開の花の下、祭りはなくても桜弁当
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