あなたは昨日の夜、どんな夢をみたの?わたしは花園でチョウチョになっていたわ。でも6時になって目覚ましがなると、チョウチョではなくなっていた。もっとチョウチョでいたかった。花から花へと、遊んでいたかった・・・
そしてあなたの夢の花園へも遊びにいきたかった・・・
新潟のむかし話2「夢買長者」を読んだ人々はみな、口々に言うのだった。
「若いあんちゃんは、年とったあんちゃんの夢を買って、本当に夢の通りに金甕を掘り出せたのね。」
「いい夢、買ってよかったよね。でも、たいていの夢はただの夢で終わるでしょ。」
「そうよね。どうしてその夢が本当に実現するって、わかったのかしら?」
そこで私は、しあわせを告げる小さな虫を探し出し、取材を試みた。以下は青いみつばちブンブンの陳述である。
あたしは、青いみつばち、ブンブン。とってもちっちゃいよ。あたしを見つけられる?「しあわせの青い蜂」と呼ぶ人もいるよ。竜王さまのお知らせを届けるんだ。
越後の山里を飛んでいたよ。海辺の松林にきた。
あっ、あそこに、二人の薬売りのあんちゃん。木に寄りかかって一休みしているよ。年とったほうのあんちゃん、二郎どんが、居眠りし始めた。鼻がふんが、ふんが、ふくらんだり、ちぢんだりしているよ。フーン。でっかくて、いい鼻のあなだなあ。よーし、あたしも一休みだ。あの鼻のあなだ。居心地よさそうだね。
あたしは、二郎どんの鼻のあなに入って一休み。
二郎どんは、ふがー、ふがーとねているよ。
あたしも眠くなった、ふがー、ふがー。
二郎どんといっしょに、ふがー、ふがー。
そのうち、二郎どん、ぐずぐず、むにゃむにゃ、というたかと思ったら、
ハッ、ハッ、ハックショーン。
年とった二郎どんのくしゃみ、でっかいなあ。
あー、あーあー・・。あたしはくしゃみの勢いで、鼻のあなから飛び出した。
ちぇ、せっかく、いい気持ちでねていたのに。鼻の外に放りだされちゃった。
あたしは、二郎どんの顔の上で2,3回、飛びまわた。ブンブン。ブンブン。
しっかり目がさめた。
あっ、そうだ。あたしは竜王さまから、いいつかってきたんだった。
竜王さまが小判をいれた金甕を、佐渡の土の中に埋めておいたんだ。それをそろそろ掘り出しておくれって。佐渡の長者どんの裏山に白い花が咲く木があって、その木の下に埋めてあるんだって。あたしは、その白い花を見にいこうとしていたんだよ。思い出してよかった。
あたしは、一休みしたから、力が出た。えいーっと飛び出した。松林を越えた。海を越えた。ひとっ飛びで、佐渡についたよ。ブンブン。
佐渡は広いな、大きいな。あたしは飛び回った、ブンブン。
白い花の木は、どこだ、どこだ。ブンブン。
あたしが、どこだどこだビームを出すと、竜王さまから、ここだここだビームがきた。
あったよ、あの白い花だね。あの木の下だね。あの木の下に小判のつまった金甕が埋められているんだね。
うん、ここだね。わかったよ、竜王さま。この木の下をほればいいんだね。
よーし、こんどはこの白い花の木のことを、村のしょに知らせなくっちゃ。
だれにしようかな。だれがこの金甕を掘り出してくれるかな。働きもんのあんちゃんがいいな。
あっ、そうだ。さっきの薬売りのあんちゃんがいいぞ。あの鼻のあなは寝心地よかったからね。よく眠れるよ。あんなでっかい、いい鼻はめったにないよね。また、あそこに行こう。今夜のお宿は、あの鼻のあなだ。年とったあんちゃん、二郎どんの鼻のあなにしよう。そして、この金甕の話を教えてやろう。ちょうどいいや。
あたしは、えいーっと、長者どんの裏山を飛び出した。ブンブン。
また、ひとっ飛び。佐渡から、海を越えた。ブンブン。
越後の松林にもどって来たよ。ブンブン。
おーい、二郎どーん。あら、まだ寝ているよ。年とったあんちゃんはよく寝るな。
よしよし。ゆっくりねていていいよ。あたしは二郎どんの鼻のあなにすべりこんだ。あんちゃんの鼻のあなに入って一休み。
二郎どんは、ふがー、ふがーとねているよ。
あたしも眠くなった、ふがー。ふがー。
二郎どんといっしょに、ふがー、ふがー。
おーい、二郎どーん。働き者のあんちゃんだろ。金甕を掘り出して、村に持って帰って、小判を村のしょに分けておくれ。竜王さまがいうてなさるからな。
「佐渡の長者どんの裏山に白い花の咲く木があっての。その木の下に小判のつまった金甕が埋めてあるのじゃ。」
と、いうていなさる。それを、二郎どんが掘り出すのじゃ。わかったか、二郎どん。わかったかな?
二郎どんは、むにゃむにゃいうて、目を覚ました。そして、若いあんちゃん三郎どんに夢の話をした。三郎どんはまじめにその話を聞いていた。
三郎どんは、二郎どんが寝ているところをみていたんだ。そして、あたしが二郎どんの鼻に出入りしていたところも見ていたんだ。三郎どんは、
「あ、あれは青い蜂だ。」って、いっていた。
「しあわせを告げる蜂だ。」って。
そして、二郎どんの夢の話をきいて、
「あっそうか。青い蜂は、しあわせを知らせに来るってきいているぞ。だから、二郎どんの夢の話は、しあわせを教える話なんだ。」
とつぶやいた。そしてまじめな顔をして二郎どんに、いった。
「二郎どん、お前の夢の話は本当の話だよ。」
「なあにさ、夢の話さ。」
二郎どんは、まだ、ねむたげで、三郎どんの話を本気にしなかった。
困ったな。せっかく、あたしが白い花の木の下に金甕が埋まっていることを、教えてあげたのに。
あたしは、居心地のいい二郎どんの鼻のあなから抜け出した。
三郎どんの肩にとまって二人のあんちゃんの話を聞いていた。
あたしはとってもちっちゃいから、二郎どんは、あたしが鼻のあなを出入りしても気がつかない。
だども、三郎どんは目がいいんだな。あたしが飛んでいるところが見えた。そう、あたしはしあわせを告げる青いみつばち、ブンブンだよ。あたしを見つけた人はしあわせになれる。三郎どんはしあわせをつかめるよ。
あたしは佐渡に行って白い花の木を見て来たよ。その木の下に小判のつまった金甕が埋まっているよ。それを二郎どんに知らせた。けど、二郎どんは、あたしが教えても、夢の話だと思っているんだ。せっかく、二郎どんに金甕を掘り出してもらおうと思ったのに。二郎どんは、信じない。ブンブン、ブーン。
でも、三郎どんは、あたしが海を渡って佐渡に飛んでいくの、見ていたよね。青い蜂が見えたよね。あたしが、二郎どんの鼻のあなにもどったのも見ていた。そして、あたしが青いみつばち、ブンブンだって、わかったよね。
「じゃあ、三郎どん、おまえが佐渡に行って、金甕を掘り出して来てよ。ブンブン。」
あたいは、三郎どんの耳元で、言ったよ。
すると、三郎は、二郎どんに言った。
「じゃあ、その夢、おれに売ってくれ。」
三郎どんは、二郎どんの夢を買って、佐渡に向かうことにした。
あたしは、青いみつばちブンブンだから、佐渡へはひとっ飛び。あっというまに白い花の木のところに行けるよ。けど、三郎どんは、若くてもみつばちじゃないから飛べないね。
えっちら、おっちら、歩いて、舟に乗って海を渡って。
それから、また、えっちら、おっちら、歩いて・・。
もう白い花は散ってしまったよ。白い花の木はどこにあるかわかるかな?
今度は、いつ花が咲くのかな。
いつか、またきっと咲くよ、白い花。白い花の木、見つけられるよ。
三郎どん、金甕は土の中で、逃げないよ。
しあわせは逃げないよ。
きっと掘り出して来てね。待っているよ。
あたしは、しあわせを告げる 青いみつばちブンブン。
三郎どんは、あたしを見つけたから、しあわせになれる。
金甕を掘り出して、村に運んで来てね。
そして、村のみんなも、しあわせにしてね。
おしまい。
令和3年卯月 そよ風の日
作 楯よう子
切り絵 悠久城絵師 きらら
本作品 「青いみつばちブンブンの語り」
朗読動画 2021年5月8日収録
https://www.youtube.com/watch?v=-6DUkO9KTAI
種本 「夢買長者」
新潟のむかし話2 ふしぎさにひきこまれる話
朗読動画 2020年9月6日収録
https://www.youtube.com/watch?v=x02oLIvqEic
令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間
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