悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

のまればば鳥の語り

f:id:yuukyuujyou:20220213184708j:plain

冬になったら、また、毎日、雪堀り。

今年は大雪になるのかしら?いきなりの大雪は困るわ。

年をとったら、雪の降らない、もっとあったかいところで暮らしたくない?

あなたはどう思う?

新潟のむかし話「鳥のみじさま」を読んだ人々は、みな、口々に言うのだった。

「ちっちゃい鳥の歌がおもしろくて、じさまがあははと笑った拍子に、鳥を飲み込んでしまうなんて。じさまも鳥もびっくりだったでしょうね。」

「じさまはあわてて吐き出そうとしたのよね。」

「でも鳥は、『じさま。おれのことは、このままで かまわね。じさまの はらの中でくらせます すけ』だなんて。そんなにあわてなかったよ。鳥はどういうつもりだったのかしら?」

そこで、私は、じさまに飲み込まれた鳥に取材を試みた。以下は、のまればば鳥の陳述である。

f:id:yuukyuujyou:20220213185051j:plain


空を飛ぶのは楽しいよ。気持ちいいよ。どこまでも行けるよ。

山を越えて。海を越えて。いっぱい飛んだよ。毎日。毎日。

あーあ、おなかがすいた。さーて、山にもどって、ごはんにしようかな。

あたしは、あーあ、と口を開けたんだ。そしたら、なんか口に飛び込んできたよ。おなかがすいていたから、むしゃむしゃっと食べた。うんまい。

また、飛んで来たぞ。あ、みつばちだ。口を開けた。食べた。うんまい。

また、いっぱい飛んで来た。みつばちの群れだ。あーん。あーん。食べた。食べた。うんまーい。

あたしが口を開けていると、みつばちが次々にあたしの口の中に入ってきたー。あたしは、次々に、みんな食べた。

あーあ、うんまい。うんまい。おいしかった。

あたしは、おなかいっぱいになった。

こんなにおいしいごちそうは久しぶりだ。

みつばちは、おいしいんだなあ。

 

よーし。森に行って、もっと、みつばちを探そおっと。あたしはみつばちの巣を探したよ。

冬になるまでに、食べるものを、自分ちにしまっておかなくっちゃならないからね。

虫もいなくなるし、木の実もなくなるからね。

雪が降ったら、山はまっ白。里もまっ白。ごちそうはみつからないよ。

今のうちにみつばちの巣を見つけておこう。

あたしは、山をめぐって、めぐって・・。

みつばちを探して、そのあとを追いかけた。

あっ、あった。みつばちの巣、森の木の枝にぶらさがっているのを見つけた。

あったよ。しめしめ。

と思ったそのとき、急に大空から舞い降りてきた大きなタカどん。

タカどんはあたしの目の前をよこぎって、みつばちの巣めがけてまっしぐら。

そして、いきなり、もぐもぐもぐ。もぐもぐ。

みつばちの巣ごと食べ始めた。

「まってよう。タカどん。あたしがみつけたんだよ。あたしのみつばちの巣だよ。タカどん、全部食べないでよ。あたしにも分けてよー。」

「なんだ。おまえは、ちっちゃい鳥だな。おまえなんかに、やってられないよーだ。おれは、はらぺこなんだ。」

「あたしもおなかがすくんだ。冬になるから、みつばちをとっておきたいんだ。分けておくれよ。」

「おれのほうが腹がすくんだ。おれの腹のほうがでかいからな。おれのほうがずっとはらぺこなんだ。」

「あたしがみつけたんだよ。」

「おれがみつけたんだ。」

「あたしだよ。」

「うるさい、ちっちゃい鳥だな。ぴーぴー、ぴーぴー、おれさまに逆らうとは。なまいきな。うーん、きれいな羽だ。うーん、おまえもうまそうだな。よしよし。おまえも、八つ裂きにして食ってやる。」

「ぎゃー。」

タカどんはいきなり、こっちに向かってきた。

あたしはタカどんにつかまれそうになった。あのタカどんの爪にひっかかれたら、おしまいだ。

あたいは藪のなかにかくれた。

はあ、はあ、はあ、はあ。あー、あぶなかった。

タカどんは、あたしを探していたが、あきらめて大空に舞っていった。

やれやれ。

タカどんは、こわいな。あの爪にやられなくてよかった。

もう、山の巣にもどろう。夕方だ。

 

「夕焼け小焼けで、日が暮れて・・」

夕焼けの中で、カラスどんがカー、カーと鳴きながら飛んでいた。

カラスどんは、あたしを見つけると、いきなり向きをかえて、あたしの頭をつついてきた。

「痛い!」

「痛かったかい?」

「痛いにきまっているじゃないか。」

「おまえみたいにちっちゃい鳥がきどって歌っていると、頭にくるのさ。おれたちみたいに、ちゃんとカーカー鳴いてみろ。鳥はカーカーと鳴くもんだ。」

カラスどんはいばって言って、あたしを追い回した。

カーカー、カーカー。カーカー、カーカー。

 

やれやれ。

あたしはやっと逃げ切って、自分のねぐらにもどって、ぐーぐー眠った。

 

あたしは、こうして毎日、虫を食べたり、大きな鳥に食べられそうになったり、いじめられて逃げ回ったりしていたんだよ。

 

春がすぎて、夏が来て、秋になって、冬が訪れた。雪が解けて、花が咲いた。そして、春がすぎて、夏が来て、秋になって、冬が訪れた。

それが繰り返されて、繰り返されて・・・。

そして、そして・・・。

あたしゃ、ちっちゃい鳥のまま、ばば鳥になっていたよ。

 

何度も、タカどんにつかまれそうになって、逃げたよ。まだ一度も八つ裂きにされていないけど、逃げ回っているうちに、タカどんの爪にやられて、あたしの羽は、もうぼろぼろさ。飛ぶのが大変になった。もう、山を越えて、海を越えて、飛べないよ。

それから、カラスどんはやっぱり、カーカー鳴けといって、せめてくる。あたしはまじめに歌っているんだけど、そんな歌じゃだめだと、頭をつっつかれっぱなしだった。あたしゃ、頭は痛いわ、首は痛いわ、肩は痛いわ、体中が痛いよ。

 

そして、おなかがすくよ。でも、もう遠くまで飛んでごちそうを探したりできないよ。あたしゃ、森の木にとまって口を開けて待った。また、みつばちが、あたしの口の中に飛び込んでくるかな・・・と思って。

思いっきり大口を開けて、待った。いっくら待っても、みつばちはあたしの口に入ってこなかった。待ちくたびれたよ。

 

うんまいもの、食べたいなあ。みつばちでなくても、あわ餅なんかもいいな。

うんまい酒も、飲みたいな。八海山の米焼酎がうまいときいたよ。

こんなぼろの羽はぬいで、きれいな錦の羽がほしいな。錦の羽衣を着て、さかずきを酌み交わしたりしたら、極楽だろうな。

あたしゃ、仕方がないので、歌を歌った。

 

あわ餅 ちゅう ちゅう 

米焼酎 ちゅう ちゅう  

にしき さらさら 

五葉のさかずき 

もって まいろか 

ついで まいろか   

びびんのびん

 

何回、歌っても、あわ餅も米焼酎も、錦の衣も出てこなかった。あたしゃ腹をすかせたままだった。

 

f:id:yuukyuujyou:20220213185228j:plain

ふと、足元を見ると、

おややややー、じさまがちっちゃこい畑を耕しているているのが見えるよ。よく、働くじさまだなあ。そのうち、じさまは、草原に腰をおろして、なにか食べ始めたよ。にぎりめしだ。あれは、あわ餅おにぎりかな?

いいなー、いいなー。あたしも食べたーい。

「じさま、あたしにもおくれ。あや、ちゅうちゅう。」

「ほっほう、めんこい鳥だこと。ほれ、おまえも食べれ。」

じさまは、まんまつぶを投げてよこした。

あむ、あむ。うまーい。

「じさま、もっとおくれ。あや、ちゅうちゅう。」

じさまは、また投げてくれた。

あむ、あむ。うまーい。

あや、ちゅうちゅう。

いいじさまだなあ。

 

ねぐらにもどって、あたしゃ思ったよ。あしたも、じさまのところに行って、まんまつぶをもらおうっと。

次の日には、ばさまも畑に出ていた。ばさまも

「めんこい鳥だこと。」

といって、あたしにまんまつぶを分けてくれた。ばさまのにぎりめし、うんまーい。

あや、ちゅうちゅう。

あたしゃ、じさまもばさまも大好きになった。

思わず、歌が出た。

 

あわ餅 ちゅう ちゅう 

米焼酎 ちゅう ちゅう  

にしき さらさら 

五葉のさかずき 

もって まいろか 

ついで まいろか

びびんのびん

 

「おやおや、この鳥、いい声で歌うねぇ。」

じさまとばさまは手をたたいて、喜んだよ。

あたしゃ、毎日、じさまの畑にでかけて、ばさまのにぎりめしを食べ、歌を歌った。

冬が近づいてきた。

ある寒い夜、風の音を聞いていた。

「そうだ。」

あたしゃ、いいこと思いついたよ。もう、山の木のほこらのねぐらに帰らないで、じさまの腹をねぐらにすればいい。そうしよう。そうしょう。それがいい。

あたしゃ、次の日、じさまの畑に行って、面白おかしく歌をうたった。

 

あわ餅 ちゅう ちゅう 

米焼酎 ちゅう ちゅう  

にしき さらさら 

五葉のさかずき 

もって まいろか 

ついで まいろか

びびんのびん

 

じさまは、大口開けて、あははーと笑った。

それーっ、今だ。

あたしは、素早く、じさまの口の中に飛び込んだ。そしてそのまま、するりとじさまの腹の中にすべりこんだんだよ。

ああ、あたたかい。気持ちいい。こんなにあたたかい。いいとこだ。そしてここでは、口を開けるだけで、まんまつぶが食べられるんだ。

あーっ。きたぞ。まんまだ。口を開けた。まんまがあたしの口に入ってきたよ。あむ、あむ。うまーい。うんまーい。じさま、ごちそうさま。

そのうちに、あたしの傷んだ羽もしっとりしてきたよ。

じさまの腹の中は柔らかい。らくちんだー。

極楽、極楽。ずっとここで暮らそう。

 

夕べどき、じさまとばさまは、囲炉裏ばたで、あわ餅をこねながら、話していた。

「あのめんこい鳥は、近ごろみかけなくなったが、どうしているんだろう。」

「あの、おもっしぇ歌、また聞きたいねえ。」

それを聞いてあたしは思った。

そうか、じさまとばさまは、あたしの歌が聞きたいんだ。

あたしゃ、じさまのへその穴を少し広げて、

 

あわ餅 ちゅう ちゅう 

米焼酎 ちゅう ちゅう  

にしき さらさら 

五葉のさかずき 

もって まいろか 

ついで まいろか

びびんのびん

 

と歌ったよ。

じさまとばさまは手をたたいて、大喜びした。

じさまとばさまは、あわ餅を食べた。あたしもじさまの腹の中で食べたよ。ちゅうちゅうと。うまかった。

 

そして、たちまち、じさまの腹の歌は村中の評判になった。

お殿様のお耳にも聞こえて、じさまはお城に招かれた。

じさまは、いい着物を着てお城にあがった。じさまが腹をたたくと、あたしゃ、じさまのへその穴を少し広げて歌った。

お殿様は、

「みごと。みごとな歌うたいじゃ。さかずきをとらすぞ。」

といいなさった。じさまは、うやうやしく、その五葉のさかずきをうけた。

ぐびぐび。

あたしも、じさまといっしょにごちそうになった。ちゅうちゅうと。

うまいな、米焼酎。うぃー。

いい気持ちで、また歌ったよ。

 

あわ餅 ちゅう ちゅう 

米焼酎 ちゅう ちゅう  

にしき さらさら 

五葉のさかずき 

もって まいろか 

ついで まいろか

びびんのびん

 

じさまはお殿様からほうびをたくさんもらって家に帰った。

ばさまも大喜びした。

それから、あたしゃ、毎日、じさまとばさまとあわ餅を食べて、米焼酎もときどき飲んで、歌を歌って面白おかしく暮したよ。

ここは、じさまのはらの中。極楽、極楽。いい気持ち。

おしまい。

 

令和3年長月 澄んだ秋晴れの日

 

作      楯 よう子

切り絵  きらら

 

本作品   パステーシュ第19弾「のまれ ばば鳥の語り」

       朗読動画収録 2022年2月11日

 

種本    「鳥のみじさま」

      新潟のむかし話  心をうたれてじーんとする話

      新潟県学校図書館協議会編2000年

        朗読動画収録 2020年3月1日

      https://www.youtube.com/watch?v=P5ct2Lpz6RY

 

読み比べ 「鳥のみじいさん」民話の四季 角山勝義著

      朗読動画収録 2021年9月7日収録

      https://www.youtube.com/watch?v=y3R0zMfcs9Y                      

 

ブログ  「鳥のみじさまのはらの歌声のように?」

     令和2年弥生 雪なくも、のどかさが例年とは違う3月

      https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/03/04/185852

     

令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間 

ホームページ       http://yuukyuujyou.starfree.jp/

works旅の声         http://yuukyuujyou.starfree.jp/works.html

blog語り部のささやき  http://yuukyuujyou.starfree.jp/blog.html