あなたは、長い髪、すてきだと思う?
きれいな長い髪、あこがれだわ。風に揺れる長い髪。
でも、仕事中は髪が長いとじゃまかも。
とにかく、きれいでなくっちゃ。
ただ、長ければいいというわけでもないわよね、女の髪は。
・・・そして人生もそうかも・・ね。
新潟のむかし話2「長い長い名前」を読んだ人々はみな、口々に言うのだった。
「生まれた子どもがしあわせに長生きしてほしいと願うのは、親心よ。」
「そうよね。やっとできた子どもなら、なおさらそう思うでしょう。」
「でも、そのためにつけた名前があんまり長いのも、不便でしょうね。呼ぶのに時間がかかり過ぎてしまってもね。井戸に落ちて、助けるのに手間取って、手遅れになったんでしょう。その長い名前の子はどう思っていたのかしら。」
そこで私は、その子どもを呼び出し、取材を試みた。以下は長い名前の子どもの陳述である。
おいらの名前は長いんだ。それでおいらのこと、長い名前の子とか、長い長い名前の子とか、長い長い、ながーい名前の子って呼ぶ人もいるよ。長い名前だと呼ぶのが大変みたいだね。
おいらのととさとかかさは、おいらが生まれると、ふつうの名前ではもの足りなぇし、なーご生きるよに、なーごて、りっぱな名前をつけてぇもんだと、和尚さまんとこに相談に行ったんだ。それでおいらの名前は、
ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)
つくしの おんぼう しゃりんぼう
とおりの こうべは たてえぼし
わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)
どんどらびょうしの どん太郎
茶わんのしりに 糸つけて
きりりっと もうた 万の丞(じょう)
になった。
ととさとかかさは、おいらをかわいがってくれて、いつも、おいらをそう呼んでくれた。するとおいらは、うーんとのびをして、眠とうなった。ぐー、ぐー、ぐー。
長い名前を呼ばれるたびに、おいらのからだは長くのびた。そして、おいらはおおきくなった。
外で友達と遊んでいて、友達がおいらを呼ぶ。
ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)
つくしの おんぼう しゃりんぼう
とおりの こうべは たてえぼし
わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)
どんどらびょうしの どん太郎
茶わんのしりに 糸つけて
きりりっと もうた 万の丞(じょう)
呼ばれると、おいらは、途中で、のびをして、ぐーぐーぐー。
とねてしもた。おいらが目をさますと、友達はいなくなっていた。おいらはそれから、地面をはっている、ミミズやムカデどんと遊んでいた。おいらは、名前が長いせいか、長いからだの生きものが大好きさ。
あるとき、みんなして、かくれんぼをした。
よーし、いねむりしないで隠れるぞ。
あっ。あそこがいいぞ。あの井戸の後ろなら見つからないぞ。おいらは井戸の後ろにしゃがたんだ。
「もういいかい。」
「もういいよ。」
鬼さん、来るかな?来るかな?
むむむ・・・
鬼さんは来なかったけど、ムカデどんが来たよ。ムカデどんはどこに行くのかな?おいらはムカデどんを見ていた。ムカデどんは、井戸のへりをちょこまかちょこまか歩いていって・・ああっ・・どこに行った?
見えなくなったよ。どこどこ?・・・ああああああ・・ぎゃあ・・
おいらはムカデどんを追いかけて、井戸の中に落ちていた・・・・・
いててててて・・・いたいよう、えーん、えーん。真っ暗だよう。こわいよう。
ここは井戸の底かなあ。
なんか、ぬるぬるするぞ。いきなり声がした。
「なんじゃ、お前は?わしの背中に落ちおって。痛いのはわしのほうじゃ。」
あっ、へびどんだ。
「お前は、長い名前の子どもだな。こんなところに遊びにきたのか?」
「えーん、えーん。ちがうよ、ちがうよー。うちに帰りたいよう。帰りたいよう。えーん。」
「帰りたけりゃ、帰ればいいじゃろう。」
そういうと、へびどんは、スルスルと井戸の壁を登り始めた。
「まってよう。おいらも帰るよう。おいらをおいていかないでよう。つれて行ってよう。」
へびどんは、ふりかえって、いった。
「お前をおぶっては登れんわい。」
「いやだよう、こんなとこに一人にしないでよう。助けてよう。えーん、えーん。」
おいらが一生懸命、泣いて頼むと、ヘビどんは、
「じゃあ、これを食べれ。へびいちごじゃ。これを食べればお前もへびになって、壁が登れるようになる。そーれ。」
と、おいらの口、目がけて、へびいちごを投げてよこした。
「ぱくっ。、むしゃむしゃ、うまい。」
それから、からだが、もぞもぞしてきた。おいらはへびになるのをじっと待った。
もぞもぞもぞ・・・だいぶ、へびらしくなってきた。これで壁を登れるかな。
ちょっとやってみた。スルス・・・
ぎゃー、ばたん。壁から落ちた。
「登れないや。えーん。」
へびどんは、
「もっと、こう背中をのばしたり、ちぢんだりして。」
と手本を見せてくれた。
よーし、こんどこそ。スルスル・・・
ぎゃー、ばたん。また落ちた。
へびどんみたいに、からだが長くないからな。
おいらは、また、えーんと泣いた。
すると、遠くでおいらを呼ぶ声がした。
ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)
つくしの おんぼう しゃりんぼう
友達がおいらを探しているんだ。
とおりの こうべは たてえぼし
わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)
友達は何回もおいらの名前を呼んだ。
どんどらびょうしの どん太郎
茶わんのしりに 糸つけて
きりりっと もうた 万の丞(じょう)
おいらは、名前を呼ばれて、うれしくなった。自分の名前が呼ばれるのを聞いているうちに、からだが、だんだん長くなっていった。とうとう、へびどんと同じくらいに長くなっていた。
ようし、これなら登れるぞ。おいらは、ヘビどんのあとについて、壁をスルスル、スルスルと登った。
やったー。井戸の外に出られた。
へびどん、ありがとう。
友達は、おいらが井戸に落ちたのを知 らせにいったらしい。でも、おいらは井戸からでられたよ。おいらは、うきうきして、家に帰った。
家の前まできて、
「かかさ、今、帰った。」
といおうとして、気がついた。おいらはへびのままだった。どうやったら、このへびのからだが脱げるんだろう。へびどんに聞こうとしたけど、へびどんはもう、いなくなっていた。おいらは困った。
土間で丸くなっていると、おいらを呼ぶ声がした。
ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)
つくしの おんぼう しゃりんぼう
とおりの こうべは たてえぼし
わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)
どんどらびょうしの どん太郎
茶わんのしりに 糸つけて
きりりっと もうた 万の丞(じょう)
名前が呼ばれるのを聞いているうちに、おいらは眠とうなった。
ぐー、ぐー、ぐー。
そして目覚めると、かかさの腕の中にいた。
「いやだよ、この子は。こんな土間に寝ていて。」
おいらは、自分のからだをみた。へびではなくなっていた。
おいらは立ちあがった。かかさは、
「また、背が伸びたね。この子は、寝るたびに背がずんずんのびるよ。」
といった。
おしまい。
令和3年皐月 特別警報の合間に
作 楯 よう子
切り絵 悠久城絵師 きらら
書 渡邊渓山 種本挿絵をもとに筆写
本作品 「長い長い名前の子の語り」
朗読動画 2021年5月17日収録
https://www.youtube.com/watch?v=58ax7bmNT6w
種本 「長い長い名前」
新潟のむかし話2 おかしくておなかをかかえる話
朗読動画 2020年7月26日収録
https://www.youtube.com/watch?v=KAW6sznhOiw&t=217s
令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間
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