悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

パスティーシュ第15弾「長い長い名前の子の語り」

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 あなたは、長い髪、すてきだと思う?

きれいな長い髪、あこがれだわ。風に揺れる長い髪。

でも、仕事中は髪が長いとじゃまかも。

とにかく、きれいでなくっちゃ。

ただ、長ければいいというわけでもないわよね、女の髪は。

・・・そして人生もそうかも・・ね。

 

 新潟のむかし話2「長い長い名前」を読んだ人々はみな、口々に言うのだった。

「生まれた子どもがしあわせに長生きしてほしいと願うのは、親心よ。」

「そうよね。やっとできた子どもなら、なおさらそう思うでしょう。」

「でも、そのためにつけた名前があんまり長いのも、不便でしょうね。呼ぶのに時間がかかり過ぎてしまってもね。井戸に落ちて、助けるのに手間取って、手遅れになったんでしょう。その長い名前の子はどう思っていたのかしら。」

 そこで私は、その子どもを呼び出し、取材を試みた。以下は長い名前の子どもの陳述である。

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 おいらの名前は長いんだ。それでおいらのこと、長い名前の子とか、長い長い名前の子とか、長い長い、ながーい名前の子って呼ぶ人もいるよ。長い名前だと呼ぶのが大変みたいだね。

おいらのととさとかかさは、おいらが生まれると、ふつうの名前ではもの足りなぇし、なーご生きるよに、なーごて、りっぱな名前をつけてぇもんだと、和尚さまんとこに相談に行ったんだ。それでおいらの名前は、

 ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)

 つくしの おんぼう しゃりんぼう 

 とおりの こうべは たてえぼし 

 わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)

 どんどらびょうしの どん太郎

 茶わんのしりに 糸つけて

 きりりっと もうた 万の丞(じょう)

になった。

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 ととさとかかさは、おいらをかわいがってくれて、いつも、おいらをそう呼んでくれた。するとおいらは、うーんとのびをして、眠とうなった。ぐー、ぐー、ぐー。

長い名前を呼ばれるたびに、おいらのからだは長くのびた。そして、おいらはおおきくなった。

外で友達と遊んでいて、友達がおいらを呼ぶ。

 ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)

 つくしの おんぼう しゃりんぼう 

 とおりの こうべは たてえぼし 

 わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)

 どんどらびょうしの どん太郎

 茶わんのしりに 糸つけて

 きりりっと もうた 万の丞(じょう)

呼ばれると、おいらは、途中で、のびをして、ぐーぐーぐー。

とねてしもた。おいらが目をさますと、友達はいなくなっていた。おいらはそれから、地面をはっている、ミミズやムカデどんと遊んでいた。おいらは、名前が長いせいか、長いからだの生きものが大好きさ。

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 あるとき、みんなして、かくれんぼをした。

よーし、いねむりしないで隠れるぞ。

あっ。あそこがいいぞ。あの井戸の後ろなら見つからないぞ。おいらは井戸の後ろにしゃがたんだ。

「もういいかい。」

「もういいよ。」

鬼さん、来るかな?来るかな?

むむむ・・・

鬼さんは来なかったけど、ムカデどんが来たよ。ムカデどんはどこに行くのかな?おいらはムカデどんを見ていた。ムカデどんは、井戸のへりをちょこまかちょこまか歩いていって・・ああっ・・どこに行った?
見えなくなったよ。どこどこ?・・・ああああああ・・ぎゃあ・・

おいらはムカデどんを追いかけて、井戸の中に落ちていた・・・・・

いててててて・・・いたいよう、えーん、えーん。真っ暗だよう。こわいよう。

ここは井戸の底かなあ。

なんか、ぬるぬるするぞ。いきなり声がした。

「なんじゃ、お前は?わしの背中に落ちおって。痛いのはわしのほうじゃ。」

あっ、へびどんだ。

「お前は、長い名前の子どもだな。こんなところに遊びにきたのか?」

「えーん、えーん。ちがうよ、ちがうよー。うちに帰りたいよう。帰りたいよう。えーん。」

「帰りたけりゃ、帰ればいいじゃろう。」

そういうと、へびどんは、スルスルと井戸の壁を登り始めた。

「まってよう。おいらも帰るよう。おいらをおいていかないでよう。つれて行ってよう。」

へびどんは、ふりかえって、いった。

「お前をおぶっては登れんわい。」

「いやだよう、こんなとこに一人にしないでよう。助けてよう。えーん、えーん。」

おいらが一生懸命、泣いて頼むと、ヘビどんは、

「じゃあ、これを食べれ。へびいちごじゃ。これを食べればお前もへびになって、壁が登れるようになる。そーれ。」

と、おいらの口、目がけて、へびいちごを投げてよこした。

「ぱくっ。、むしゃむしゃ、うまい。」

それから、からだが、もぞもぞしてきた。おいらはへびになるのをじっと待った。

もぞもぞもぞ・・・だいぶ、へびらしくなってきた。これで壁を登れるかな。

ちょっとやってみた。スルス・・・

ぎゃー、ばたん。壁から落ちた。

「登れないや。えーん。」

へびどんは、

「もっと、こう背中をのばしたり、ちぢんだりして。」

と手本を見せてくれた。

よーし、こんどこそ。スルスル・・・

ぎゃー、ばたん。また落ちた。

へびどんみたいに、からだが長くないからな。

おいらは、また、えーんと泣いた。

すると、遠くでおいらを呼ぶ声がした。

 ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)

 つくしの おんぼう しゃりんぼう 

友達がおいらを探しているんだ。

   とおりの こうべは たてえぼし 

   わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)

友達は何回もおいらの名前を呼んだ。

    どんどらびょうしの どん太郎

    茶わんのしりに 糸つけて

    きりりっと もうた 万の丞(じょう)

おいらは、名前を呼ばれて、うれしくなった。自分の名前が呼ばれるのを聞いているうちに、からだが、だんだん長くなっていった。とうとう、へびどんと同じくらいに長くなっていた。

ようし、これなら登れるぞ。おいらは、ヘビどんのあとについて、壁をスルスル、スルスルと登った。

やったー。井戸の外に出られた。

へびどん、ありがとう。

友達は、おいらが井戸に落ちたのを知 らせにいったらしい。でも、おいらは井戸からでられたよ。おいらは、うきうきして、家に帰った。

  家の前まできて、

「かかさ、今、帰った。」

といおうとして、気がついた。おいらはへびのままだった。どうやったら、このへびのからだが脱げるんだろう。へびどんに聞こうとしたけど、へびどんはもう、いなくなっていた。おいらは困った。

土間で丸くなっていると、おいらを呼ぶ声がした。

 ちよに ちよにの 長三郎(ちょうさぶろう)

 つくしの おんぼう しゃりんぼう 

 とおりの こうべは たてえぼし 

 わんびつ がたがた がた左(ざ)衛門(えもん)

 どんどらびょうしの どん太郎

 茶わんのしりに 糸つけて

 きりりっと もうた 万の丞(じょう)

名前が呼ばれるのを聞いているうちに、おいらは眠とうなった。

ぐー、ぐー、ぐー。

 

 そして目覚めると、かかさの腕の中にいた。

「いやだよ、この子は。こんな土間に寝ていて。」

おいらは、自分のからだをみた。へびではなくなっていた。

おいらは立ちあがった。かかさは、

「また、背が伸びたね。この子は、寝るたびに背がずんずんのびるよ。」

といった。

おしまい。

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令和3年皐月 特別警報の合間に

 

作    楯 よう子

切り絵    悠久城絵師 きらら

書    渡邊渓山   種本挿絵をもとに筆写

 

本作品 「長い長い名前の子の語り」

     朗読動画 2021年5月17日収録

https://www.youtube.com/watch?v=58ax7bmNT6w

 

種本 「長い長い名前」

            新潟のむかし話2  おかしくておなかをかかえる話

            新潟県学校図書館協議会編2006年

朗読動画 2020年7月26日収録

https://www.youtube.com/watch?v=KAW6sznhOiw&t=217s

 

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