新潟のむかし話2000年「ホトトギスと兄弟」の伝えるところによると・・・・
風邪をひいて寝込んでしまった兄を心配した弟。早く元気になってもらおうと、自然薯を採ってきてすりおろしては、兄に食べさせていた。弟は自然薯のやわらかいい、いいところをとろろにして兄にやり、自分は土間のかげで、しっぽのまずいところを食べていたのだ。しかし兄は、弟が隠れてうまいものを食べているのではないかと疑い出した。疑いをはらそうとして弟は、自分の腹をかき切って臓物の中身を見せようとしたのだという・・・
兄の後悔。
ホトトギスとなった兄の鳴き声は止むことがない・・・
おじ恋しい・・おじ恋しい・・と、林のあちこちから、昼となく夜となくホトトギスの鳴き声が聞こえているというが・・・
はたして、ホトトギスは、なんと言って鳴いているのだったろう・・・
あーん、きゅうくつだあ。もう、いつまでもねてられないよ。もう出たいよ。どうやったら出られるんだ。おいらはもう卵じゃないよ。小鳥ちゃんだよ。ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。ねてられないよーだ。出たいよ。出たいよー。ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。
コツコツコツ。
おいらは、あたりをつっついたよ。
コツコツコツコツ。コツコツコツコツ。
あっ、開いた。殻に穴が開いた。お外だ。お外がみえる。ぴょっぴょ。
もっと、つっついた。
コツコツコツ、コツコツコツ。
わー、外だ、外だ。頭を出した。出られた。からだも出した。ぴょっぴょ。
おいらは殻をぬぎ捨てた。
やったー。大成功。ホトトギス小鳥の誕生だ。ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。
すると、急に目の前に、大きな顔が近づいてきた。
あっ、おいらのかか鳥だな。おいらに、おめでとうをいいに来たんだ。ぴょっぴょ。
「かかさー、ぴょっぴょ。」
おいらは飛びつこうとした。
「なにいっているんだ。かか鳥のもんか。かか鳥は卵をおいてすぐに飛んで行ったさ。」
「えっ、かかさじゃないの。ぴょっぴょ。かかさかと思ったよ。そうか。じゃあ、あんちゃ鳥だね。あんちゃーん。」
「ちぇ、あまえるんじゃねー。おじ鳥め。ここは乳母鳥の巣だ。おれさまの巣だ。」
「ふーん。あんちゃの巣なんだね。おなか、すいたよ。なんか食べさせてよ。ぴょっぴょ。」
「うるせー、おじ鳥だ。今、乳母鳥が虫、とってくるからな。だがよ。その虫はおれさまの食べ物さ。おまえの分はないよ。」
「えーん、ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。おいらの分はないの。あんちゃ、分けてくれないの?」
「さっき、いっただろう。ここはおれさまの巣だって。乳母鳥はおれさまの乳母だ。乳母鳥がとってきた虫はおれさまの食べ物だって。」
「えーん、ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。せっかく生まれてきたのに、おいらの食べ物はないの。えーん、ぴょっぴょ。」
「うるせーな。おまえ、ホトトギスなら、ホトトギスらしく泣け。なんだその泣き方は。おまえは、赤んぼ鳥だなあ。虫を食べるのはまだ無理だ。そうだ。赤んぼ鳥には山芋の汁がいいぞ。」
「ふーん。おいらには山芋の汁がいいのか。じゃあ、あんちゃ、それは乳母鳥が持ってきてくれるの。ぴょっぴょ。」
「さっき、いっただろ。乳母鳥はおれさまの虫を取って来るんだ。」
「じゃあ、おいら、どうすればいいの?えーん。えーん。」
「うーん。ほら、下をみてみろ。がけっぷちのところで村のときすけどんが山芋ほり、しているだろ。ときすけどんは毎日、山芋ほりじゃあ。ときすけどんの腹の中に、山芋の汁がたっぷり入っているぞ。だから、ときすけどんの腹の中に入れば、山芋の汁がたっぷり、いただけるというものさ。」
「わかった。あんちゃ鳥、おいら、ときすけどんの腹に入るよ。ぴょっぴょ。」
「よーし。じゃあ、いいか。あの村のしょが、あああーとあくびをしたら、おれさまがおまえを蹴ってやるから、おまえは、ときすけどんの口に飛び込むんだ。」
「うん。わかったよ。ぴょっぴょ。」
あんちゃ鳥とおいらは、じっと、ときすけどんが山芋ほりしているのを見ていた。
すると、とうとう、ときすけどんは、手を休めたかと思うと、腰をのばした。そして、
「ああああー」と大あくびだ。
「そーれ、今だ。飛び込め―。」
ぽーん。
あんちゃ鳥は、ときすけどんの大口めがけて、上手においらを蹴ってくれた。おいらは、ときすけどんの腹にストーン。しめしめ。これで山芋の汁を待つばかり。ぴょっぴょ。
ときすけどんは、山芋を大事に家に持ち帰った。そして、山芋の一番いいところをとろろにすりおろした。
もうじきおいらも山芋、食べられるぞ。うひひ・・ぴょっぴょ・・ぴょっぴょ・・・。
ところが、
「あんちゃ、これ食って早う元気になってくれや。」
ときすけどんは、すりおろした山芋のいいところを全部、病気で寝ている、ぽとすけあんちゃに食べさせた。なーんだ、ときすけどんは食べないのかと、おいらは思った。ときすけどんは、土間のかげに隠れて、残ったの山芋のしっぽなんかをかじっていた。それで、おいらのところにうんまい山芋の汁はまわって来なかった。
えーん、えーん。ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。
それが何日も続いた。
えーん、えーん。はらがへったよ。ぴょっぴょ。うんまい山芋の汁がほしいよー。
おいらの声がきこえたらしい。ぽとすけあんちゃが言った。
「おい、ときすけ、おまえの腹の虫が泣いとるぞ。おまえは、おれなんかと違って、いくらでもうまいものを食べられるじゃないか。どうして腹の虫が泣くんだ?もっと、うまいものが食べたいのか?」
「あんちゃ、なにいうだ。おら、うまい山芋はみんな病人のあんちゃに食べさせている。それでいいんだ。おら、自分がうまいものが食べたいなんて思っていねえ。」
えーん。えーん。はらへったー。うんまい山芋の汁―。ほしいよー。ぴょっぴょ。
おいらはここぞとばかり、もっと大きい声で泣いた。
「ときすけ、また、おまえの腹がなった。おまえ、腹がへっているんだ。」
「おら、腹なんかへっていねえ。」
えーん。えーん。はらへったー。はらへった―。ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。
「じゃあ、今のはなんだ。おまえの腹の虫じゃないのか。おまえの腹をみせてみろ。」
ぽとすけあんちゃは、いやがる ときすけどんを押さえつけて、無理やり、着物をめくって、おじの腹を広げた。
「ほら、あんちゃ、おら、腹なんかへっていねえ。見てくれ。腹がこんなにふくれている。」
ときすけどんの腹は、おいらのおかげで、ぷっくら、ふくらんでいた。だども、おいらは、もう、ときすけどんの腹に入っているのが嫌になった。ぴょっぴょ。おいしい山芋の汁もなんも来ないんだから。それで、おいらはまた泣いた。
えーん、えーん。ほしいよー。ほしいよー。ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。
「ときすけ、おまえの腹が、えーん、えーんと赤ん坊みたいな声で泣いとるぞ。いったい、どうしたんだ。この腹はどうなっているんだ。」
ぽとすけあんちゃは、ときすけどんの腹をぎゅっと押した。
よーし。今だ。ぴょっぴょ。
おいらは腹を押された勢いで、ときすけどんの口から飛び出した。ぴょっぴょ。
ぽどすけ兄は勢いよく押してくれたから、おいらはお空に向かって飛びたった。
ぴょっぴょ。ぴょっぴょ。
大空を飛んで、大きく息を吸った。すると、もう赤ん坊の声ではなくなっていた。おいらはうれしくなった。
そうだ。おいらのあんちゃに知らせよう。
「あんちゃーん。どこだー。あんちゃーん。どこにいるー。」
おいらは、森中、おいらのあんちゃ鳥を探した。山から山へ飛んだよ。
「あんちゃ鳥やー。おいらはお空を飛んでいるよー。」
おいらは、赤んぼ鳥じゃあ、なくなっていた。ひとりで虫も探せそうだ。
あんちゃ鳥ももう乳母鳥のところにはいないだろうな。どこにいるんだろう。大空は広いな。
おいらは、歌いながら、いつまでもあんちゃ鳥を探した。
おいらは赤んぼ鳥じゃないぞ。虫も自分で探すよ。そして、あんちゃ鳥といっしょに食べよう。
「あんちゃーん、どこにいるんだー。あしたは節句だー。あしたは節句だー。いっしょにごちそう、食べようよー。」
空においらの声が響いた。あんちゃーん。お空は広いね。
村のぽとすけあんちゃは、それからだんだん元気になって、ときすけおじといっしょに、また働き始めたということだ。
いく日も、いく晩も、おいらは探したけど、おいらのあんちゃ鳥はみつからない。
それでもおいらは、
「あんちゃーん、どこにいるんだー。どこにいるんだー。」
と、あんちゃ鳥を探しているよ。
あんちゃーん、会いたいよー。
おしまい。
令和4年如月 寒さにふるえる夜
本作品 パスティーシュ第21弾 「弟ホトトギスぴょっぴょの語り」
朗読動画収録 2022年10月9日
https://www.youtube.com/watch?v=iHFP8V9qe8U
種本 「ホトトギスと兄弟」
新潟のむかし話 心をうたれてじーんとする話
朗読動画 2020年 5月8日収録
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