越後おとぎ話 第28話 「ちょうちょこ 金と貝殻一山の語り」
新潟のむかし話2000年「青竹三本と塩一升」の伝(つた)えるところによると・・・
ある晩、山の神さんは、金持ちの家に生まれた男の子には、青竹三本のびんぼう運をつけ、びんぼうな家に生まれた女の子には、一日塩一升の大吉。いい運をつけてきた。
それから何年かたって、びんぼうな家に生まれた娘が、金持ちの家の嫁になると、金持ちの家はますます金持ちになった。しかし、若だんなは嫁をきらって、嫁は家から出される。出された嫁は、今度は、みすぼらしい家のあんにゃさの嫁になった。すると、びんぼうな家はまたたくまに金持ちになった。いっぽう、前の亭主は、バタバタと身上をつぶしていた。食べていけなくなって、家のまわりにある青竹で蓑を作り、売りに出る。それを見て、元の嫁さは前の亭主を気の毒がって、にぎりめしの中に小判を入れて渡した。だが、元の亭主はそのにぎりめしを落としてしまう。運のないもんは、どこまでいっても運がないというお話。
はて、さて、山の神さんは今、どうしているのだろう。はたして、今も子どもの生まれた家に運をつけにまわっているのか?
おらは、ちょうちょこ じゃ。おらが生まれたとき、おらの顔が不細工だったもんで、おらのおととは、うんと考えたんだと。貧乏百姓の家で、不細工な顔のおとととおかかにできた子だろも、この子は、さなぎが蝶に変わって空を舞うように、らくらくと生きてもらいたい。そうだ、ちょうちょだ。ちょうちょこだ。
それで、おらの名前は、ちょうちょこ になった。
おらは、ちょうちょこ、ちょうちょこ と呼ばれて、おとととおかかにかわいがられて大きくなった。だども、顔は不細工のままだった。その上、不愛想なもんで、おかかに、
「ちょうちょこや、おまえは、ちょこちょこ、体はよく動くがの、人様にはちゃんとあいさつして。もっと愛想よくするもんだ。ぶっちょうずらで不愛想はいかん。」
と、ちょこちょこ、おこられていた。
そんでも、年頃になると、縁談話がきた。
それが、なんと網元のだんなさんの家からじゃったから、家中のもんが驚いた。
おらは器量もよくないし、愛想もないし、家には支度する金もないのに、どうしておらを嫁にといわれるのか不思議じゃった。
おととは、
「ちょうちょこ、でかしたぞ。おまえは働きもんだで、みこまれたんだ。これからは蝶になって大空を舞うのじゃ。」と大喜びじゃった。
おらも喜んで、網元の家の嫁にになった。若だんなは色白のおとなしい人で、何でも親のいうこと聞く人だったから、おらのこと文句のひとつも言わねかった。網元では、おらが嫁に入ってからは、毎日、大漁旗が上がった。おらはご飯し、してたんだが、毎日がお祭りさわぎみたいで、大忙しであったさ。
しばらくして、だんなさんが亡くなった。急なことで、網子のしょは、だんなさんはごっつおうの食べ過ぎで腹が破れたんだというておった。
そして、若だんなが、だんなさんになった。
それからまた、しばらくすると、おらは、網元の家を出されることになった。おらは器量も愛想もよくないし、若だんなさんは、本当はおらのこと初めから好かんかったんじゃろう。
おらは、ネコのトラだけもらって網元の家を出た。おらは、どこに行っていいかわからなかったから、
「トラや、トラ。おまえの好きなところに連れて行ってくれ。」
と言った。
トラは、
「ついておいで、にゃーご。」
と鳴いて、歩き出した。おらはとぼとぼとトラの後について行った。トラはどんどん山に入っていった。山を登って、登って・・・そして、ようやく、
「ここだよ。にゃーご、にゃーご。」
と鳴いた。
傾きかけた家の前だった。
トラがここだというから、おらは勇気を出して、トントンと戸をたたいた。
腰の曲がったばさまが出て来た。
「行く当てのない旅のもんです。今夜一晩、泊めてもらわんねろっか?」
「なじょうも、なじょうも。泊まっていきなされ。」
ばさまは、にっこりした。
ばさまは、あんにゃさと二人暮らしだった。
おらは、昼はばさまの手伝いをして、夜は身の上ばなしをしていた。
ばさまは、
「ちょうちょこや、おまえさんは、愛想はないが、ちょこちょこと、よう働いてくれるなあ。おらとこのあんにゃの嫁になってくれんか?おら、このとおり年とってしもうたが、こんな山の中まで嫁に来てくれるおなごもおらんで、あんにゃのことが心配でのう。」
あんにゃさは、はじめは、うつむいていたが、そのうち顔をあげて、
「ちょうちょこや、おら、おまえのちょこちょこ、よく働く姿が好きだし、ネコのトラがおまえのあとを追って、ちょこちょこ歩くのもかわいいげだ。ちょうちょことトラと、このまま、いっしょにおらんちの家のもんになってくれ。」
おらは、聞いているうちに涙が流れてきた。
トラは、すかさず、
「うん、そうしよう。にゃーご。にゃーご。」と鳴いて、話が決まった。
それから、おらたち、ばさまと、あんにゃさと、おらは、一生けんめい働いた。
ばさまとおらは、畑仕事。あんにゃさは、山仕事に精を出して、傾きかけた家も建て直した。
トラは、昼間はたいてい寝ていたが、夜は夜回りの仕事があると言っておった。
トラの話では、トラの一族には、代々、夜回りの仕事があるのだという。夜回りの仕事というのは、生まれてくる子の家を見てまわって、その子に運を授けるのだという。そしてそのことを、子どもの父親の夢枕に知らせに行くのだと。トラがトラのばあさんから聞いた話では、トラのばあさんは、網元の息子には、貝殻一山のびんぼう運を授けたし、おらが生まれるときには、金一山の大吉。いい運を授けたのだという。おらは不思議な話だと思って聞いていた。
おらは、あんにゃさと、ばさまと、トラとの、ここの暮らしが、好きだった。
あるとき、山のおらたちの家に旅の行商人がきた。背中に山のように荷物をしょって、大汗をかいていた。
「ここまで登ってくるのは、大変だったろうの。」
と、おらが行商人の顔を見ると、それは、別れた網元のだんなだった。汚れた身なりで、やつれ果てていた。おらは、あまりの変わりように驚いた。食べ物を出してやり、休ませてやった。
問わず語りにいうことには、おらが網元の家を出たあと、大嵐があって、網元の舟はみんな流されたのだという。大だんなが亡くなって、若だんなが、だんなさんになったが、毎日贅沢をしていたから、身上をつぶしてしまって、舟を新しく作る金はなかった。今は、海岸に打ち寄せる貝を拾って、暮らしを立てているのだという。そして貝殻を集めて、行商に出ているのだと。
あんなに羽振りのよかった網元の家だったのにと、おらは気の毒になった。おらは貝殻を一山全部、買うてやることにした。
だんなは、貝拾いだけで大仕事だと言っていた。そうだろうの。じゃが、拾った貝殻を全部背負って行商にでるより、きれいな貝殻を選んで売りに出た方がよかったんじゃねーかな、とおらは思った。そして、行商に出るのが難儀かったら、集めた貝殻を家で飾り物に作ったりしたらどうかなと、思った。
おらは、そのことをだんなに話してみたども、だんなは何も言わなかった。
だんなが貝殻一山の代金を大事そうに懐に入れて帰ったあと、おらは、買った貝殻をむしろに広げてみた。飾り物にできそうなもの、皿にして使えそうなものをより分けようとした。だども、役にたちそうな貝殻は、ねーようだった。
それを、ばさまが、見ていた。
「こって、いっぺ貝殻があるのう。貝塚ができるのう。」
と、あきれたように言った。そして、ふと、
「おや、何か光っているねか・・・」
とつぶやいて、一つの貝殻を拾い上げた。その貝殻には、きらきらした小さな石がくっついていた。
「これは・・・?金でねえか?」
ばさまが、大声を出したので、あんにゃさが飛んで来た。
「きらきら光っとるの。これが金というものかの。こんな石なら、山にいくらでもあるがの。」
「えーっ、ほんとうか?」
ばさまは、さっきよりももっと大きい声を出した。
「ああ、じゃあ、今度、山に行ったときに掘って持ってきてやるよ。」
あんにゃさは言った。
2,3日して、あんにゃさは、山から石を切り出してきた。
その石の一山が金色に光っているのを見ると、ばさまは、声も出ず、腰をぬかした。
おらとあんにゃさは、大笑いした。
あんにゃさは、ばさまがいつまでも立てずにいるのを見ていたが、金の石はばさまの腰に悪いといって、次の日、山に返しに行った。
おらたちは、いままでどおり、山の家で、らくらくと暮らした。
トラが、昼は寝て、夜になると出歩くことも変わらなかった。
おらは、昼は野に出て働き、夜は、すやすやと眠った。そして、金色の蝶になって、大空を舞った。
おしまい
令和5年 猛暑の孟秋
本作品 越後おとぎ話第28話
「ちょうちょこ金と貝殻一山の語り」
箱庭劇場 2023年11月5日収録
作・朗読 楯よう子
出演
ちょうちょこ: 鳴子こけし
トラ: 陶器猫 佐藤陽一作
ばさま:干支ネズミ
あんにゃさ:Muggsie made in Korea
若だんな:犬YOSHITOKU /飛騨さるぼぼ
種本 「青竹三本と塩一升」
新潟のむかし話 不思議さにひきこまれる話
朗読動画収録 2020年3月7日収録
https://www.youtube.com/watch?v=BuYqOt35qFs
ブログ 「山の神の仕事は世の資源の平準化?」
令和2年弥生 まだ綿入れ半纏をはおる3月
https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/03/10/204521
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