悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

鬼婆はきれいな女になりたがる?

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このところの新型コロナで巷は姦しい。

新潟のむかし話の「食わず嫁さ」の鬼婆の住む山の岩穴は、そんなニュースが伝わるはずもなく、静かである。しかし、静か過ぎるのである。落ち武者はおろか、旅行者が迷いこんでくることが全くなくなってしもうたんだと。そうすると、冬眠から目覚めても、鬼婆はエサがなくなって腹が減る。仕方なしに、里に下りて来た。鬼婆は人を見る目が確かである。人付き合いの苦手な、孤立しがちな男は、もっとも標的にしやすい。村のもんに相手にされない男をすぐに嗅ぎ出した。こういう男は人付き合いをしない分、存外、富を蓄えているものなのである。鬼婆は岩穴生活の前には、人の暮らしもしていたから、体内時計を急速逆回転させ、若い女になった。吝嗇な男ほど、きれいな女に弱いことも知っていた。まだ嫁のない男をたぶらかすことなど、わけもないことなのだった。

鬼婆の失敗をあえてあげるとすれば、それは炊き立てのご飯で作ったにぎりめしのおいしさを思い出したことだろう。それは岩穴生活では味わえないものだった。人肉をゆっくり、しゃぶっていた時には、それで結構うまいと思っていたのだったが。しかし、この塩をつけてにぎった、にぎりめしのおいしさはどうだ。さすが魚沼コシヒカリだ。「うんめえ」の一言である。この満足感。幸福感。何升でも食べられるぞ。やめられない。腹いっぱい食べ続けていたい。

だから、鬼婆はこのままずっと、男の家で暮らしていてもよかったのだ。男が騒ぎ出すことがなかったら・・・。口惜しいことだが、やっぱりけちな男は心が狭いのだった。すぐに怯え、出て行ってくれだと。しょうがないので、男を岩穴で食べることに方針を変えたが、男を取り落としてしまう。男がショウブとヨモギの中に隠れてしまったので、ショウブとヨモギの苦手な鬼婆はあえなく退散で、ジ・エンド。

わたしはとても残念だった。

わたしはどうやら、鬼婆の立場に身を置いているらしい。

わたしはどうやら、今後、山姥どころか、さらに強力な鬼婆になりたいと思っているのか?

ショウブはそれほど危険ではないではないか?刀の刃のように鋭く立っていたといっても、鬼婆が恐れるほどのものか?ヨモギは餅草として、だんごを作るのに使うではないか。にぎりめしが好きなら笹団子も好きなはずで、鬼婆が恐れるどころか、いくらでも食べたくなるものではないのか?

この昔ばなしは、だれにでも弱点があることを教えようとしているのか?

しかし、わたしは、機会があったら、鬼婆に伝えたい。ショウブは刀ほどには深く切れないと。ヨモギは殺菌作用があるといっても猛毒ではないと。

鬼婆も長年、鬼婆として生きてきたから、それなりに思い込みが激しいだろう。ショウブとヨモギに怯えて、鬼婆は男を取り逃がし、貴重な食糧を失った。

今、この国では、公表された新型感染症の死亡者数に比し、社会のリアクションが大きく、今後、経済的な衰退に結びついていこうとしているのか?

わたしは、相変わらず、感染症対策に厚着をしながら、春の訪れを待っている。

 

令和2年弥生 かい巻きを着て例年とは違う3月

 

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Works 旅の声 2020年3月6日収録

「食わず嫁さ」新潟のむかし話 

こわくてふるえる話 新潟県学校図書館協議会編

 https://www.youtube.com/watch?v=vgum6OibvAY&t=48s