子どもをいじめて、虐待して、一人取り残された・・・
夜も昼もなく、灰色の時間が流れるだけ・・
この心は何も感じない・・・
朝日も見えない、夕日も見えない。
眠ろうにも、眠れない・・
いくら飲んだくれても、忘れさせてくれない・・
重いからだをかかえて、これから、どうする?どうなるの?
朝は来るの?
あなたの隣で、そんなつぶやきが聞こえているかしら?
新潟のむかし話2「朝日と夕日」を読んだ人々は、みな、口々に言うのだった。
「朝日は、さんざん継母にひどい目にあわされて、本当にこれから家でいっしょにやっていけるの?」
「虐待おかかはアルコール依存症でしょ。いいかかになんて、なれるの?」
「夕日は、自分のおかかのこと、どう思っていたんだろう?」
そこで、わたしは、弟の「夕日」に取材を試みた。以下は「夕日」の陳述である。
おらは、夕日だ。ぎんぎゃあ。朝日ねえちゃんが、大大だーい好き。いっつも朝日ねえちゃんと遊んでた、ぎんぎゃあ。
んだども、かかさは、それが気に食わねかった。
かかさは、言った。
「夕日、ねら、ねらは男だぞ。朝日と遊ぶんでねえ。おなごと遊んどると、そのうち、おなごになるぞ。」
「いいよーだ、ぎんぎゃあ。朝日ねえちゃん、やさしいもーん。おら、おっきくなったら朝日ねえちゃんになるよーだ、ぎんぎゃ。」
かかさはしーぶい顔して、ねえちゃんの頬をつまずった。
あるとき、ととさが上方参りに行くことになった。
「朝日には、真っ赤なべべ、みやげに買うてきてやるぞ」
って、ととさがいうもんで、
「おらにも、真っ赤なべべ、買うて、ぎんぎゃ。」
って、言った。そしたら、かかさは、
「夕日には、赤いべべなんて、似合わね。似合うわけねえだろ。」
ぴしゃりと言った。
ととさは、黙って、出かけてしもた。
ととさがいねくなると、かかさの天下になった。
「夕日や、夕日や、大きくなれや。」
って、おらにだけ、うんまいもんを食わせた。
「このうちには夕日だけ、おればいいんじゃ。」
って言って、朝日ねえちゃんには、毒まんま食わせようとしたり、ねえちゃんの寝てるところに盤石を落として、ねえちゃんをつぶそうとしたり、本性を出してきた。
「朝日は、まぶしくて困ったもんだのう。朝日はいらんわい。朝日のこと、始末するから手伝え。」
って、おらに言った。おらは、ねえちゃんと逃げた。
かかさは、
「まて、まてー。」
と追いかけてきた。
とうとう追いついて、ねえちゃんを落とし穴に落として、土をかぶせて生き埋めにした。
かかさは、
「これで、あしたの朝は、ゆっくり、寝てられるわい。」
といって、家さ帰っていった。
おらがねえちゃんを助けようと思っても、おらの力では堀り返せなかった。
おらは、
「ぎんぎん、ぎゃあぎゃあ。ぎんぎん、ぎゃあぎゃあー。」
と、泣いてしもた。
そしたら、ひげのおじじが出てきた。
「なんだ、真っ赤な顔しおって。お前の名は?」
「夕日や、ぎんぎん、ぎゃあぎゃあー。ぎんぎん、ぎゃあぎゃあー。」
「夕日か。ぎんぎゃあ、ぎんぎゃあ、何、泣いとる?」
「朝日ねえちゃんが埋められた、ぎんぎゃあー。」
「なに?朝日が埋められた?そうせば、あしたの日の出はどうなるのじゃ?早う、掘り起こすのじゃ、早う、早う。」
おじじは、白いひげも泥だらけにして、朝日ねえちゃんば、掘り出した。そうして、おらたちをじじさの家さ、連れてってくれた。もう夜が更けていた。
翌朝、朝日のさし込むじじさの家で、三人して朝げを食べた。
「うまい、まんまだのう。気持ちのいい朝じゃ。朝になると、おてんとうさまが顔を出す。朝日がさす。朝まんまがうまい。朝日はゆっくり、村を眺めて、夕方になったら夕日になるのじゃ。そうして夕日がさすと、夕まんまがうまい。」
「えっ、朝日が夕日になるの?ぎんぎゃ?」
おらは訊いた。
「そうじゃ。朝日は夕日になる。それから夕日は、夜は寝て、朝になったら朝日になる。」
「えっ、ええーっ、夕日が朝日になる?ぎんぎんぎゃあぎゃあ、ぎんぎんぎゃあぎゃあ。」
「そうじゃ、そうじゃ。夕日が朝日になるのじゃ。」
「おらが朝日になる、ぎんぎゃ。」
おらはうれしかった。
「やっぱり、そうだ。おらは、朝日になるんだ。おらは、ねえちゃんが大好き。うれしーい!ぎんぎゃあ、ぎんぎゃあー。」
朝日ねえちゃんも、ぴかぴかと、笑った。
「おらは朝日になるんだー。ぎんぎん、ぎゃぎゃあー。」
おもてで、
泣いて泣いて、目が見えなくなったおととが、鉦を鳴らしながら、おらたちを探しに来た。
ねえちゃんが、飛び出して、
「おとと、おとと。」
と抱きついた。
「朝日か。」
おととは、ねえちゃんを抱き寄せて、においをかいだ。そうしていると、朝日ねえちゃんがぴかぴか光って、そのまぶしさで、おととの目が見えるようになった。
目の見えるようになったおととと、朝日ねえちゃんとおらと、3人で、家さ帰った。
おかかは、寝そべって、飲んだくれていた。
おととは、いきなり、おかかの酒瓶をひったくった。
「いつまで、酒、飲んでるんじゃー。」
「うい、ううい。今は、何時じゃ。」
「昼時じゃあ。」
「朝日がいねなったら、朝日がささねなった。朝が来たのがわからねなって、起きられなくなってしもた。」
「んだば、ずっと夜なんか?」
「夕日も帰らね。夕日もささねし、夜になるのもわからねなった。おらは眠らんねくなった。いっくら、、酒、飲んでも、眠らんね。」
おらは、おかかに言った。
「おかか、おかか。夕日が帰ってきた、ぎんぎゃあ、ぎんぎゃあ。」
「おお、おお。夕日じゃ。夕日じゃ。夕日が帰ってきた。そうせば、やっと、きょうは日が沈む。きょうは夜がくる。夜がくれば、おらはやっと寝られる。」
朝日ねえちゃんも言った。
「おお、おお。朝日じゃ。朝日じゃ。朝日が帰ってきた。ちゃんと手も足もあるのう。いかった。いかった。朝日が帰ってきた。あしたは、夜が明けて、朝日が出るのお。あしたは朝が来るのう。」
おかかはそう言って涙を流した。
おかかは、その日の夕方、夕焼けを見て真っ赤な顔になって、もうひと泣きした。
それから夕まんま、
「うんまい、うんまい。」
と言って食べた。日が沈むと、
「夜だ、夜だ。」といって、酒飲まないで、すぐに寝た。
次の日、日の出とともに、おかかは目をさました。おかかは朝日を浴びて、
「朝だ、朝だ。」
と涙のあとを洗った。そして、にこにこ顔して、あんころ餅を作りはじめた。
おととは上方参りのみやげに、赤いべべと桃色のべべを買うてきてくれた。
朝日よりも夕日のほうが赤いから、おらは赤いべべを着た、ぎんぎゃあ。ねえちゃんは桃色のべべを着た。
そして、おらとねえちゃんは、おかかの作ったあんころ餅を食べて、また、遊んだ、ぎんぎゃあ。
それからというもの、毎日、毎日、朝日ねえちゃんと夕日ぎんぎゃあは、朝になるとおてんとうさまの日の出を手伝い、夕方になると日の入りを手伝ったそうな。村では、毎日、きまって、朝には朝日がさし、夕方には夕日がさした。村人は、朝日とともに働き出し、夕日が沈むと眠りに落ちた。そして、村は栄えたそうな。
おしまい。
令和2年神無月 おてんとうさまが隠れた
絵 悠久城絵師 きらら こと 酒井晃
悠久城風の間 http://yuukyuujyou.starfree.jp/
Works 旅の声 2020年10月11日収録
新潟のむかし話2「朝日と夕日」
かわいそうでなみだがでそうな話
https://www.youtube.com/watch?v=fpIREIhIPtk
2020年10月18日収録
パスティーシュ第2弾「夕日ぎんぎゃあの語り」
https://www.youtube.com/watch?v=4cKB4qgJKnk&t=12s