悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

屁っこき息子プブー太の語り

越後おとぎ話 第26話 「屁っこき息子 プブー太の語り」

 

おらはプブー太じゃ。おらのかかさは、おらがプブーと屁をこけば、おらの言いたいことは、みんなわかってくれるのじゃ。かかさは、屁っこきよめさまとよばれておるがのう。きいたことあるじゃろ。「屁っこき嫁さ」の話。

おらは、ばさから聞かされてた。

かかさは、嫁に来て、屁を我慢してたら、顔色が青うなってきてしもうたんじゃと。しゅうとめばさに遠慮するなといわれて、たまっていた屁をこいたんじゃ。そしたら、その屁の風で、しゅうとめばさが吹っ飛ばされて、大けがになったんじゃ。ととさが怒って、かかさを里に返しにいったんだども、そのみちすがら、屁の力が役に立つことがわかって、家に戻ってきた。そして、こんだ、らくらくと屁をこける小屋を作ってもらったんだと。

かかさの屁の風で、柿もぎも楽にできるし、浅瀬に乗り上げた船も動くし、畑の大根とりも手よごさんでできるし、うちは、だんだん金もたまってきたんじゃ。うちのもんは、おうように暮らしておったてんがの。

かかさは、長い着物きて、いっつも、ふあふあーとしてたと。そのうち、かかさの顔がしもぶくれになってきおってのう。ばさがいうたそうじゃ。

「よめや、おまえ、また屁をがまんしてないか。顔が少し、ふくらんで青うなってないか?」

「うん、おら、なんだが腹もふくれて重うなってきた。」

「無理するなや。遠慮しねえで、屁こけや。」

「うん、じゃあ、ばさま、おら屁こかしてもらうすけ、わーりろも、そこの石臼にしっかりつかまっていてくんろ。」

ほして、かかさ、ブブ、ブブブ、ブーッて、屁こいたと。ほうしたら、その屁の風が、ものすごくでっこいんだ。ばさは、つかまった石臼といっしょに、ふあふあふあーと、ととさの畑まで飛ばされた。

「どうしたんじゃ、ばさま。久しぶりに飛んだのう。」

「おう。いいあんばいに、飛ばしてもろた。おまえも、そろそろ仕事しまいにして家に帰るか。」

と、ばさがいったときに、かかさが、息をスーッと吸い込んだんで、その風にのって、ととさも、ばさといっしょに石臼に乗って、ストーンと家に戻ってきたんじゃと。

すると、そのとき、

ブブ、ブブブ、ブーッ。

かかさが、また超特大のでっこい屁、こいたんじゃ。ととさとばさが、驚いたのなんのって。聞いたこともない、超特大っぺだったんだと。そしてその屁の風にのって、かかさの腹のなかから、赤子がとび出て来たんじゃ。

ふんぎゃ、プップププー。ふんぎゃ、プップププー。

「おお、赤子なのに、こりゃまた、りっぱな屁じゃ。」

赤子は屁をこきながら生まれてきた。ばさは腰をぬかしたと。ととさは、

「おお、この屁で、こってまた、かせいでくれるりゃ。」と大喜びじゃったと。

それが、おらだ。へっこきがうまくなるように、おらの名前は、プブー太になった。

 

かかさが乳を飲ませてくれると

プップププー、プップププー。

しめが汚れると、

ブッ、ブーッ。ブッ、ブーッ。

おらが、屁を鳴らすたびに、うちのもんは大喜びした。

「さすが、プブー太じゃ。日本一の屁こきになるぞ。」

と、ととさも、おおいばりじゃった。

おらは大きくなった。おらは、生まれたときから、屁を鳴らしているから、口は食べるときだけ使って、話は、みんな屁で用をたしていた。

かかさが

「プブー太や。まんま食べるか?」

プップププー、プップププー。

おらは、腹いっぱい、まんま、食った。

「プブー太や。水くみしてくろ。」

ブッ、ブーッ。ブッ、ブーッ。

おらは、水くみしないで、遊びに行った。

 

ともだちが、

「プブー太や。かくれんぼするか?」

プップププー、プップププー。

おらは、かくれんぼ、大好きじゃ。

「プブー太や。今度は、おまえが鬼じゃ。」

ブッ、ブーッ。ブッ、ブーッ。

おらは、鬼は大嫌いじゃ。鬼にならないで、家に帰った。

 

おらは、プップププーとブッ、ブーッのプブー太やった。

おらは、プップププーとブッ、ブーッと屁は鳴らせるが、屁の風はたいして吹かなかった。

あるとき、おらが一人で留守番していると、

トントン、トントン。

だれか、来たようじゃ。

出てみると、娘っ子が立っていた。

「屁っこきよめさまのお宅は、こちらですか?」

プップププー、プップププー。(ずいぶん大きな、娘っ子じゃ)

「お会いしたいのですが?」

プップププー。(よくみれば、きれいな、娘っ子じゃ)

「今、お仕事ですか?」

プップププー。(かわいいげな顔だ)

プップププー。(それに、声もきれいだ)

「おまえは、プーしかいえないのか?」

娘っ子は、おこっていた。おらは、

ブッ、ブーッ。

「プーだけじゃないぞ。ブーも鳴らせるぞ。おらは、プップププーとブッ、ブーッのプブー太や。」

と言ったつもりだったども、おらの屁は、

プップププー、ブッ、ブーッと鳴るだけだった。

「ははあ。おまえは、屁っこきよめさまの息子のプブー太だな。年はいくつじゃ?」

プー、プー、プー、プー・・

おらは、「今年で、十三になる。」というつもりで、プー、プー、プー、プー・・を十三回鳴らしている途中、娘っ子は口をはさんだ。

「プーとかブーじゃなくて、ちゃんと話してくろ。」

ブッ、ブーッ。(かかさなら、プーとブーで、全部わかってくれるんじゃ)

娘っ子は、おらの屁のプブーに頭にきたようだった。

「おらは、屁っこきよめさまのところに、屁っこき修行にきたんじゃ。よめさまは、いつお帰りじゃ?」

ブッ、ブーッ。(おら、しらね)

 

ちょうど、そこへ、かかさが帰って来た。

「プブー太、今、帰った。」

プップププー。(やれやれ、かかさのお帰りじゃ)

娘っ子が前に進み出た。

「屁っこきよめさま。おらはとなり村から来た、うし子でございます。おらのととさが、申しました。『うし子、おまえは大めしぐらいで、体は大きくなった。これからは、めしを食った分、稼がねばのう。このままでは、ととの稼ぎだけでは、大めしぐらいのおまえを満足に食べさせてやれぬ。おまえほどの体ともなれば、屁もでっこくて力があろう。どうじゃ、屁っこきよめさまのところに弟子入りして、屁っこきの修行をしてくるのじゃ。屁っこき風ができるようになれば、野良仕事が楽になって、食べることも心配いらぬ。おまえは遠慮しないで好きなだけ食べられるようになるのじゃ。』そういうわけで、どうか、屁っこきよめさま。よめさま秘伝の屁っこき術をおらにお授けください。」

と頭を下げた。

かかさは、驚いていた。

「屁っこき術といってものう。ただ、屁をこいているだけじゃがのう。」

「おらは、あんまり大食いなもんで、家を出されました。どうか、よめさまのうちで使こうてくださいませ。」

娘っ子は、最後は涙ながらに頼んだ。

プップププー、プップププー(おらんちに、手伝いがくるぞ。おら、水くみしないでいいぞ。いいぞ)

そして、うし子は、小屋に住み込むことになった。

 

二三日して、家の手伝いの合間に、おととが言った。

「よし、うし子とプブー太の屁っこき合戦をするぞ。」

かかさが、言った。

「うし子。屁こいてみ。」

うし子は、

「へえ。」

と言って、ぽこん とこいた。

すると、庭の松の木が揺れた。

「うし子。なかなかやるの。うし子の屁の風は強くなりそうじゃの。」

かかさは、感心して言った。そして、こんどは、

「プブー太。こいてみ。」

おらは、プップププー、プップププー とこいた。

すると、木に止まっていたフクロウが、昼寝から目覚めて、フフフと笑った。

「プブー太もなかなかやるの。プブー太の屁の風は弱いども、おもしろい、へっこき歌のようじゃのう。」

と、かかさも笑った。うし子も笑った。

おととは言った。

「うし子の屁の風は役に立ちそうじゃの。じゃが、プブー太の屁では、野良仕事では使いもんにならんぞ。」

ブッ、ブーッ。(おらは、なさけなくて、屁だけでなく、涙が出でてきた)

しばらくして、おととが言った。

「うし子は、おらんちのかかさのとこに、屁っこき風の修行にきているから、プブー太、お前は、屁っこき風はうし子に任せて、これから、屁っこき歌うたいになったらどうじゃ。」

「そうじゃ。プブー太は、へっこき歌うたいがいいかもしれんのう。」

かかさも言った。

ととさが言った。

「この山を越えた村に住んでいる屁ふりじさまの屁ふり歌は、それはそれは、みごとなものじゃそうじゃ。おとのさまもたいそう、感心されて、ほうびをたくさんくだされたそうじゃ。どうだ。プブー太、おまえはこれから、修行をして、日本一の屁っこき歌うたいになるのじゃ。」

プップププー。(うん。なるほど。おらは、涙をふいて、決めた)

プップププー、プップププー。(おらは屁っこき歌うたいになる。修行に行くぞ)

「よし、決まった。プブー太は屁っこき歌うたいになるのじゃ。修行に出るのじゃ。さあ、さっそく、屁ふりじさまに弟子入りじゃ。屁ふりじさまのところに行くのじゃ。覚悟はいいか。飛ばしてやるぞ。」

かかさは、大きく息を吸い込んだ。そして、力いっぱい、ブブ、ブブブ、ブーッて、屁こいた。

おらは、かかさの屁の風に飛ばされて、家をあとにした。

風にのって下をみると、ととさと、かかさと、うし子が手を振っていた。

プップププー。(がんばるぞー)

おらも屁の風に飛ばされながら、大きく手を振った。

おらは、日本一の屁っこき歌うたいになって帰ってくるぞ。

プップププー。(おらは、がんばるぞ)

ととさと、かかさと、うし子が小さくなって見えなくなった。

山を越えた。

屁ふりじさまの家はどこだ・・・

おしまい

令和5年 穂実る月 大雨のあと

 

本作品 越後おとぎ話 第26話 

「屁っこき息子プブー太の語り」

箱庭劇場 2023年8月27日収録

                                                                         

作・朗読      楯よう子

出演 

 プブー太   Muggsie made in Korea

 かかさ    ラブラドールレトリバー YOSHITOKU

 ととさ    飛騨さるぼぼ

  ばばさ    干支ねずみ

 うし子    鳴子こけし

 ふくろう   手づくりぬいぐるみ

背景      きめこみパッチワーク    

 

種本  「屁っこき嫁さ」

     新潟のむかし話  おかしくておなかをかかえる話 

     新潟県学校図書館協議会編2000年

     朗読動画収録 2020年2月28日

https://www.youtube.com/watch?v=gIdGflGtdi8

 

ブログ 「放屁力と嫁への敬意」

令和2年如月 感染拡大を聞き重ね着して春を待つ日

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/02/26/224144

 

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