のんびり穴の中でいつまでもお昼寝していられたら、楽ちんでいいよね。
冬眠どころか、春になっても寝ていたい・・。カエルのフッケロみたいに。
夏の暑い時には、ひんやりとした穴の中が気持ちよさそう。
でも、寝てばかりだと、つまらない?
もっと外で飛び回って遊びたい?兎の子みたいに。
あなたは、フッケロ派?それとも兎派?どっち?
新潟のむかし話2「兎とフッケロのとびっくら」を読んだ人々は、みな、口々に言うのだった。
「兎は、春になって、野山でおもしろいことして遊びたかったのよね。餅とか、ぼた餅でフッケロを誘い出した。」
「でも結局、とびっくらはフッケロの勝ち。兎はフッケロに負けっこないと思っていたのに、フッケロに餅とかぼた餅を食べられてしまう・・せっかく、おもしろい遊びを考えたと思ったのに。」
「フッケロはぼた餅を兎に分けてあげた。兎は自分が意地悪だったと謝ったけど、ほんとに意地悪でとびっくらを始めたのかしら?」
そこで私は、兎に、取材を試みた。以下は、末っ子うさぎの陳述である。
あたいは末っ子うさぎ。
春になった。野原は気持ちいいなあ。
兄ちゃんうさぎは、ピョン、ピョン飛び始めた。
春は楽しいな。あたいも飛んだ。いっしょにあそぼ。
あたいはピョンコ、ピョンコ飛んだよ。
兄ちゃんうさぎは、飛んだ。ピョンピョン、ピヨーン、ピヨーン。
兄ちゃんは、高く飛ぶよ。
速く、飛べるよ。
あ、待って、待ってー。あたいも連れて行って。
あたいは、ピョンコ、ピョンコ。
兄ちゃんは、ピヨーン、ピヨーン。
兄ちゃんうさぎは、速いな。
待ってー。待ってー。待っててばー。
あー、またおいていかれちゃったよ。
兄ちゃんは、いっつもあたいをおいて行ってしまうよ。
あたいは、末っ子うさぎ。兄ちゃんうさぎみたいに、速く飛べないよ。
兄ちゃんは見えなくなった。
えーん。えーん。えーん。
あたいの涙が、サラサラ流れて、春の小川になった。
ちぇ、つまんない。ひとりぼっちはつまんないぁ。
地面を見ると、草の中からヘビどんが出て来た。
へびどんはゆっくり、地面をはっていた。
「へびどん、いっしょにとびっくらしようよ。」
あたいが話しかけると、
「なに。とびっくらだって?おいどんは、飛べないよーだ。」
そっかぁー。へびどんは飛べないんだ。
あたいは、へびどんの後ろから、へびどんのマネをして、ついて行ったよ。
にょろ、にょろ、にょろ、にょろ。むむむ・・
へびどんみたいにうまく、にょろにょろ地面を進めないよ。
へびどんは、あたいをおいて、行ってしまった。
あたいは、寂しくなって、また泣きそうになった。
すると、春の小川の歌が聞こえてきた。
春の小川は、サラサラ行くよ
穴のカエルや、うさぎの子らに
きょうも一日、野原で飛んで
遊べ遊べと、ささやきながら
そうだ。そういえば、カエルのフッケロどんは、どうしているかな?
フッケロどんなら、飛ぶのは得意だよ。いっしょに遊べるかな?
あたいは地面をほじくった。
あっ、いるいる。フッケロどん。
だれか穴の中で寝ていると思ったら、やっぱり、カエルのフッケロどんだ。
まだ寝ているんだ。
「おーい、フッケロどん。」
あたいは、フッケロどんを呼んだよ。
「眠いよ、眠いよ。むにゃむにゃ。」
「フッケロどん。春だよ。春。もう春だよ。」
「むにゃ、むにゃ、むにゃのゲロゲロゲロ」
「フッケロどん、目、覚めたか?」
「ゲロゲロゲロのむにゃむにゃむにゃ。」
やっと目が覚めたかと思ったら、また眠りはじめたよ。
フッケロどんはそんなに眠たいんだ。いいな。気持ちよさそうで。
よーし、じゃあ、あたいも、ねよーッと。
フッケロどんの穴に入ってあたいも目をつぶったよ。
「むにゃむにゃむにゃ・・・」
あれー、眠れないよ。
「フッケロどん、もう春だよ。起きなよ。野原に出て遊ぼうよ。」
「ゲロゲロゲロ、腹が減って起きられない。むにゃむにゃむにゃ。」
「腹ペコで起きられないのか。元気出してよ。じゃあ、フッケロどんの目がさめるように、餅をついてあげるよ。」
「おお、餅か。餅はええのー。」
フッケロどんは起き上がってきた。
ぺったん、ぺったん、餅つきぺったん。
フッケロどんも、ぺったん、ぺったん、ゲロゲロぺったん。
あたいとフッケロどんは、桜の木の下で、ウグイスの声を聞きながら餅つきをした。
餅ができた。
「できた、できた。ゲロゲロゲロ。」
フッケロどんも大喜び。
「ようし、食べるぞ。ゲロゲロ。」
「ちょっと待って、フッケロどん。とびっくらして、それから食べよう。すぐに食べるより、野原でとびっくらして食べたら、おいしくなるよ。」
「ゲロゲロ。すぐ、食べるんじゃないのか?すぐ食べたい。ゲロゲロ。」
「とびっくらして食べた方が、ずっとおいしくなるんだよ。そーれ、いちにのさんで、臼を、この山のてっぺんから転がすよ。臼を追いかけて、たいらのところに着いたら臼が止まるから、そしたら一緒に餅を食べよう。わかった?フッケロどん、早くついたら先に食べもいいよ。さあ、フッケロどん。いくよ。そーれ。いち、にの、さーん。」
あたいは、臼を転がした。臼はゴロゴロゴロと坂を下った。
うさぎとフッケロのとびっくら。スタート。
あたいは、ピョンコ、ピョンコの子うさぎ飛び。
フッケロどんは、バッタラコーン、バッタラコーンのカエル飛びだ。
さあ、がんばるぞ。
【実況中継】
転がる臼を追いかけて、両者一斉のスタート。
末っ子うさぎはさすがにうさぎ。ピョンコ、ピョンコと素晴らしい脚力を見せています。
一方、フッケロどん、ジャンプ力はありますが、からっぽのおなかをかかえて、バッタラコーン、バッタラコーンと力強さがみられません。
末っ子うさぎは楽々と飛んでいきます。
それを追うフッケロどん。苦しそうです。
末っ子うさぎがリード。末っ子うさぎがリード。
だんだん、両者の差が開いてきています。
さあ、この勝負。末っ子うさぎが勝つか、カエルのフッケロどんが勝つか?どうなるでしょう。末っ子うさぎはどんどん高く、速く飛んでいきます。速い。速い。末っ子うさぎ。うさぎの勝利はまちがいないところでしょう。
あたいは、ピョンコ、ピョンコ。
フッケロどんは、バッタラコーン、バッタラコーンと飛んだ。
あたいは、がんばって飛んだ、飛んだ。飛んだ。高く飛んだ。だんだん速くなった。兄ちゃんうさぎみたいだ。楽しいな。
ピョンコ、ピョンコ、ピヨーン、ピヨーン。
あたいは、末っ子うさぎのピョンコピョンコ飛びから、だんだん、にいちゃんうさぎのピヨーン、ピヨーン飛びになっていたよ。
高く飛べるよ。速いよ、速いよ。うれしいなあ。楽しいな。
一生けんめい飛んだ。力いっぱい飛んだ。青空の下、日差しの中を飛んだ。
汗が出た。汗がいっぱい出た。汗が流れた。汗が春の小川に注ぎ込んだ。
春の小川の水の流れが速くなった。
【実況中継】
フッケロどんは、バッタラコーン、バッタラコーンと一生けんめい飛んだ。
「ゲロゲロ、ゲロゲロ・・・。もうくたびれたよ。ゲロゲロゲロ・・・」
一生けんめい飛んでいるのに、末っ子うさぎはもうずっと先を飛んでいる。
見えなくなっていた。フッケロどんは、飛ぶのに疲れて、ふうーとため息をついた。
「暑いな。ゲロゲロ。おいらは暑いのは苦手なんじゃ。ゲロゲロ。」
そこへ春の小川が流れて来た。
フッケロどんはちょうどいい流れが来たと思って、春の小川に飛び込んだ。
ザブーン。
涼しくて気持ちがいいなあ。ゲロゲロ。
フッケロどんは、急に元気が出た。
そして、スーイ、スーイ。小川を泳ぎ始めた。
気持ちよく泳げるぞ。小川の流れが気持ちいい。
速いぞ、速いぞ。ゲロゲロゲロ。流れに乗った。
スーイ、スーイと気持ちよく泳げるぞ。ゲロゲロゲロ。
あたいは、末っ子うさぎ、今は上手に、飛べるよ。ピヨーン、ピヨーンと。
フッケロどんは小川の流れにのってうまく泳げるよ。スーイ、スーイと。
【実況中継】
山を下って、平らのところに臼が待っていた。
ゴールだ。着いた。兎とフッケロどんは、同時に臼の前に着いた。
ばんざーい。二人とも優勝。おめでとう。
「楽しかった。」
とあたいがいったら、フッケロどんも
「楽しかった。」
と笑った。
「腹ペコだ。ゲロゲロ。」
フッケロどんも、あたいも、よだれをいっぱい垂らしていた。
えいっと、二人同時に餅を口にほおばった。
あたいは飛ぶのがうまくなったよ。兄ちゃんうさぎみたいに高く速く飛べるようになったよ。フッケロどんも春の小川で泳げてよかったね。フッケロどんも速かったね。水の中を泳ぐの気持ちよかったんだね。
あたいとフッケロどんは、おしゃべりしながら、餅をひと臼、食べた。
春の小川は、末っ子うさぎとフッケロどんのよだれを集めて里に下り、大川になったんだと。それが、今、越後平野をとうとうとれる信濃川なんだということだ。
おしまい。
令和3年文月 よだれのせいではないが所により大雨
作 楯 よう子
本作品 「末っ子うさぎの語り」
朗読動画 2021年8月 近日収録予定
種本 「兎とフッケロのとびっくら」
新潟のむかし話2 おかしくておなかをかかえる話
朗読動画 2020年 6月29日収録
読み比べ 「ヒキガエルとウサギ」
民話の四季 角山勝義著
朗読動画 2021年8月14日収録
https://www.youtube.com/watch?v=Nf3KPWc6d7Q
ブログ 「フッケロになるには?」
令和2年水無月
信濃川の流れは、雨か兎のよだれか、見極めようと佇んだ日
https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/06/30/205036
令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間
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