悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

パスティーシュ第18 弾「末っ子うさぎの語り」

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 のんびり穴の中でいつまでもお昼寝していられたら、楽ちんでいいよね。

冬眠どころか、春になっても寝ていたい・・。カエルのフッケロみたいに。

夏の暑い時には、ひんやりとした穴の中が気持ちよさそう。

でも、寝てばかりだと、つまらない?

もっと外で飛び回って遊びたい?兎の子みたいに。

あなたは、フッケロ派?それとも兎派?どっち?

 

 

新潟のむかし話2「兎とフッケロのとびっくら」を読んだ人々は、みな、口々に言うのだった。

「兎は、春になって、野山でおもしろいことして遊びたかったのよね。餅とか、ぼた餅でフッケロを誘い出した。」

「でも結局、とびっくらはフッケロの勝ち。兎はフッケロに負けっこないと思っていたのに、フッケロに餅とかぼた餅を食べられてしまう・・せっかく、おもしろい遊びを考えたと思ったのに。」

「フッケロはぼた餅を兎に分けてあげた。兎は自分が意地悪だったと謝ったけど、ほんとに意地悪でとびっくらを始めたのかしら?」

そこで私は、兎に、取材を試みた。以下は、末っ子うさぎの陳述である。

 

あたいは末っ子うさぎ。

春になった。野原は気持ちいいなあ。

兄ちゃんうさぎは、ピョン、ピョン飛び始めた。

春は楽しいな。あたいも飛んだ。いっしょにあそぼ。

あたいはピョンコ、ピョンコ飛んだよ。

兄ちゃんうさぎは、飛んだ。ピョンピョン、ピヨーン、ピヨーン。

兄ちゃんは、高く飛ぶよ。

速く、飛べるよ。

あ、待って、待ってー。あたいも連れて行って。

あたいは、ピョンコ、ピョンコ。

兄ちゃんは、ピヨーン、ピヨーン。

兄ちゃんうさぎは、速いな。

待ってー。待ってー。待っててばー。

あー、またおいていかれちゃったよ。

兄ちゃんは、いっつもあたいをおいて行ってしまうよ。

あたいは、末っ子うさぎ。兄ちゃんうさぎみたいに、速く飛べないよ。

兄ちゃんは見えなくなった。

えーん。えーん。えーん。

あたいの涙が、サラサラ流れて、春の小川になった。

 

ちぇ、つまんない。ひとりぼっちはつまんないぁ。

地面を見ると、草の中からヘビどんが出て来た。

へびどんはゆっくり、地面をはっていた。

「へびどん、いっしょにとびっくらしようよ。」

あたいが話しかけると、

「なに。とびっくらだって?おいどんは、飛べないよーだ。」

そっかぁー。へびどんは飛べないんだ。

あたいは、へびどんの後ろから、へびどんのマネをして、ついて行ったよ。

にょろ、にょろ、にょろ、にょろ。むむむ・・

へびどんみたいにうまく、にょろにょろ地面を進めないよ。

へびどんは、あたいをおいて、行ってしまった。

あたいは、寂しくなって、また泣きそうになった。

すると、春の小川の歌が聞こえてきた。

 

春の小川は、サラサラ行くよ

穴のカエルや、うさぎの子らに

きょうも一日、野原で飛んで

遊べ遊べと、ささやきながら

 

そうだ。そういえば、カエルのフッケロどんは、どうしているかな?

フッケロどんなら、飛ぶのは得意だよ。いっしょに遊べるかな?

 

あたいは地面をほじくった。

あっ、いるいる。フッケロどん。

だれか穴の中で寝ていると思ったら、やっぱり、カエルのフッケロどんだ。

まだ寝ているんだ。

「おーい、フッケロどん。」

あたいは、フッケロどんを呼んだよ。

「眠いよ、眠いよ。むにゃむにゃ。」

「フッケロどん。春だよ。春。もう春だよ。」

「むにゃ、むにゃ、むにゃのゲロゲロゲロ」

「フッケロどん、目、覚めたか?」

「ゲロゲロゲロのむにゃむにゃむにゃ。」

やっと目が覚めたかと思ったら、また眠りはじめたよ。

フッケロどんはそんなに眠たいんだ。いいな。気持ちよさそうで。

よーし、じゃあ、あたいも、ねよーッと。

フッケロどんの穴に入ってあたいも目をつぶったよ。

「むにゃむにゃむにゃ・・・」

あれー、眠れないよ。

「フッケロどん、もう春だよ。起きなよ。野原に出て遊ぼうよ。」

「ゲロゲロゲロ、腹が減って起きられない。むにゃむにゃむにゃ。」

「腹ペコで起きられないのか。元気出してよ。じゃあ、フッケロどんの目がさめるように、餅をついてあげるよ。」

「おお、餅か。餅はええのー。」

フッケロどんは起き上がってきた。

ぺったん、ぺったん、餅つきぺったん。

フッケロどんも、ぺったん、ぺったん、ゲロゲロぺったん。

あたいとフッケロどんは、桜の木の下で、ウグイスの声を聞きながら餅つきをした。

餅ができた。

「できた、できた。ゲロゲロゲロ。」

フッケロどんも大喜び。

「ようし、食べるぞ。ゲロゲロ。」

「ちょっと待って、フッケロどん。とびっくらして、それから食べよう。すぐに食べるより、野原でとびっくらして食べたら、おいしくなるよ。」

「ゲロゲロ。すぐ、食べるんじゃないのか?すぐ食べたい。ゲロゲロ。」

「とびっくらして食べた方が、ずっとおいしくなるんだよ。そーれ、いちにのさんで、臼を、この山のてっぺんから転がすよ。臼を追いかけて、たいらのところに着いたら臼が止まるから、そしたら一緒に餅を食べよう。わかった?フッケロどん、早くついたら先に食べもいいよ。さあ、フッケロどん。いくよ。そーれ。いち、にの、さーん。」

あたいは、臼を転がした。臼はゴロゴロゴロと坂を下った。

うさぎとフッケロのとびっくら。スタート。

あたいは、ピョンコ、ピョンコの子うさぎ飛び。

フッケロどんは、バッタラコーン、バッタラコーンのカエル飛びだ。

さあ、がんばるぞ。

 

【実況中継】

転がる臼を追いかけて、両者一斉のスタート。

末っ子うさぎはさすがにうさぎ。ピョンコ、ピョンコと素晴らしい脚力を見せています。

一方、フッケロどん、ジャンプ力はありますが、からっぽのおなかをかかえて、バッタラコーン、バッタラコーンと力強さがみられません。

末っ子うさぎは楽々と飛んでいきます。

それを追うフッケロどん。苦しそうです。

末っ子うさぎがリード。末っ子うさぎがリード。

だんだん、両者の差が開いてきています。

さあ、この勝負。末っ子うさぎが勝つか、カエルのフッケロどんが勝つか?どうなるでしょう。末っ子うさぎはどんどん高く、速く飛んでいきます。速い。速い。末っ子うさぎ。うさぎの勝利はまちがいないところでしょう。

 

あたいは、ピョンコ、ピョンコ。

フッケロどんは、バッタラコーン、バッタラコーンと飛んだ。

あたいは、がんばって飛んだ、飛んだ。飛んだ。高く飛んだ。だんだん速くなった。兄ちゃんうさぎみたいだ。楽しいな。

ピョンコ、ピョンコ、ピヨーン、ピヨーン。

あたいは、末っ子うさぎのピョンコピョンコ飛びから、だんだん、にいちゃんうさぎのピヨーン、ピヨーン飛びになっていたよ。

高く飛べるよ。速いよ、速いよ。うれしいなあ。楽しいな。

一生けんめい飛んだ。力いっぱい飛んだ。青空の下、日差しの中を飛んだ。

汗が出た。汗がいっぱい出た。汗が流れた。汗が春の小川に注ぎ込んだ。

春の小川の水の流れが速くなった。

 

【実況中継】

フッケロどんは、バッタラコーン、バッタラコーンと一生けんめい飛んだ。

「ゲロゲロ、ゲロゲロ・・・。もうくたびれたよ。ゲロゲロゲロ・・・」

一生けんめい飛んでいるのに、末っ子うさぎはもうずっと先を飛んでいる。

見えなくなっていた。フッケロどんは、飛ぶのに疲れて、ふうーとため息をついた。

「暑いな。ゲロゲロ。おいらは暑いのは苦手なんじゃ。ゲロゲロ。」

そこへ春の小川が流れて来た。

フッケロどんはちょうどいい流れが来たと思って、春の小川に飛び込んだ。

ザブーン。

涼しくて気持ちがいいなあ。ゲロゲロ。

フッケロどんは、急に元気が出た。

そして、スーイ、スーイ。小川を泳ぎ始めた。

気持ちよく泳げるぞ。小川の流れが気持ちいい。

速いぞ、速いぞ。ゲロゲロゲロ。流れに乗った。

スーイ、スーイと気持ちよく泳げるぞ。ゲロゲロゲロ。

 

あたいは、末っ子うさぎ、今は上手に、飛べるよ。ピヨーン、ピヨーンと。

フッケロどんは小川の流れにのってうまく泳げるよ。スーイ、スーイと。

 

【実況中継】

山を下って、平らのところに臼が待っていた。

ゴールだ。着いた。兎とフッケロどんは、同時に臼の前に着いた。

ばんざーい。二人とも優勝。おめでとう。

 

「楽しかった。」

とあたいがいったら、フッケロどんも

「楽しかった。」

と笑った。

「腹ペコだ。ゲロゲロ。」

フッケロどんも、あたいも、よだれをいっぱい垂らしていた。

えいっと、二人同時に餅を口にほおばった。

あたいは飛ぶのがうまくなったよ。兄ちゃんうさぎみたいに高く速く飛べるようになったよ。フッケロどんも春の小川で泳げてよかったね。フッケロどんも速かったね。水の中を泳ぐの気持ちよかったんだね。

あたいとフッケロどんは、おしゃべりしながら、餅をひと臼、食べた。

 

春の小川は、末っ子うさぎとフッケロどんのよだれを集めて里に下り、大川になったんだと。それが、今、越後平野をとうとうとれる信濃川なんだということだ。

おしまい。 

令和3年文月 よだれのせいではないが所により大雨

 

作      楯 よう子

 

本作品   「末っ子うさぎの語り」

     朗読動画 2021年8月 近日収録予定

 

種本    「兎とフッケロのとびっくら」

     新潟のむかし話2  おかしくておなかをかかえる話 

     新潟県学校図書館協議会編2006年

     朗読動画 2020年 6月29日収録                        

https://youtu.be/ZKsuLiKIgUI

 

読み比べ 「ヒキガエルとウサギ」

     民話の四季  角山勝義著

     朗読動画 2021年8月14日収録

https://www.youtube.com/watch?v=Nf3KPWc6d7Q

 

ブログ   「フッケロになるには?」

令和2年水無月 

信濃川の流れは、雨か兎のよだれか、見極めようと佇んだ日

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/06/30/205036

 

 

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