新潟(にいがた)のむかし話(ばなし)2000年(ねん)の伝(つた)えるところの「団子(だんご)ころころ」では、
正直(しょうじき)じさが、山(やま)にかせぎに行(い)って、ばさの作(つく)ってくれた団子(だんご)を食(た)べ始(はじ)めたら、団子(だんご)は、ころころ ころがって穴(あな)の中(なか)。地蔵(じぞう)様(さま)に食(た)べられていた。地蔵(じぞう)様(さま)は、かわりにじさに福(ふく)を授(さず)けてくれるといって、鬼(おに)のばくちが始(はじ)まることを教(おし)えてくれた。じさは鬼(おに)の金(かね)をもらって家(うち)に帰(かえ)り、ばさと喜(よろこ)び合(あ)った。すると、その話(はなし)を聞(き)きつけた隣(となり)の欲(よく)ばりばさ、のめしこきじさをけしかけた。じさは、団子(だんご)をころがすが、欲(よく)ばり、あせって大失敗(だいしっぱい)。鬼(おに)に殴(なぐ)られ大(おお)けがを。金(かね)を待(ま)っていた欲(よく)ばりばさも、屋根(やね)からころげ落(お)ちたとさ。
ところで一方(いっぽう)、この欲(よく)ばり のめしこき じさとばさの家(うち)に出入(でい)りしていた、団子(だんご)ならぬダンゴムシころ子(こ)の陳述(ちんじゅつ)によれば・・・
あたしはダンゴムシのころ子(こ)じゃ。柱(はしら)にひっつかまって茶(ちゃ)の間(ま)をながめていたさ。
そしたら、ごーたればばさが、駆け込(かこ)んできて、じじさにいった。
「なあなあ、じじさ、じじさ。となりのじさとばさは、えらい金(かね)もうけしたが。二人(ふたり)してほくほくして金(かね)勘定(かんじょう)しとったぞ。となりのじさが、団子(だんご)を穴(あな)にころがして、 地蔵(じぞう)様(さま)に団子(だんご)食(た)べさせたら、地蔵(じぞう)様(さま)が福(ふく)さずけるというて、鬼(おに)の金(かね)をくれたと。
こうしちゃおれん。おまえも地蔵(じぞう)様(さま)から福(ふく)さずけてもらって、金(かね)もうけしてきてくれ。」
「なに? 金(かね)もうけとな。どうやったら、地蔵(じぞう)様(さま)は福(ふく)をくれるんじゃ?」
「団子(だんご)を食(く)わせるんじゃ。」
「団子(だんご)とな。地蔵(じぞう)様(さま)に食(く)わせるより、おれが団子(だんご)食(く)いたいわい。」
「おまえが団子(だんご)食(く)っても金(かね)はでてこんわ。」
「おれが団子(だんご)食(く)ってからにしょうて。」
「おまえに団子(だんご)食(く)わせるのはもったいないわ。」
「おれに食(く)わせろー。食(く)わせろー。」
やれやれ、またこの家(いえ)のごーたればばさとごーつくじじさのけんかが始(はじ)まったよ。 じじささが、団子(だんご)食(く)わせろ、団子(だんご)食(く)わせろと、わめきたてた。食(く)い意地(いじ)はって、うるさい、ごーつくばりのじじさだ。
ようーし、黙(だま)らしてやる。目(め)つぶしだ。
あたしは、えいっと飛(と)んで、じじさの顔(かお)を直撃(ちょくげき)。バシッ。
やったー。命中(めいちゅう)。
「いたたー。」
じじさは、また、わめいた。
「どうしたんじゃ。」
ばばさはたいして、かわいそがらずに、いった。
じじさは、べそかいて、
「おまえ、おれにパンチくらわしたな。」
「なにいっているだ。ばちあたり、じじさめ。なに寝ぼけているんじゃ。むむむ、おや、これはなんだ。」
ばばさは、土間(どま)にころがって丸(まる)くなっているあたしを見(み)つけたようだ。
「じじさ、いいものみーつけた。ダンゴムシじゃ。団子(だんご)なんぞ作(つく)って地蔵(じぞう)様(さま)に食(く)わすのはもったいない。このダンゴムシを穴(あな)にころがして、地蔵(じぞう)様(さま)から福(ふく)もらってくるのじゃ。金(かね)もうけじゃ。いつまでも、いたいの、かゆいのと泣(な)きごといってねーで、はよ、いってこう。」
ばばさはあたしをじじさの手(て)ににぎらせて、ドンと、じじさを家(いえ)から追い出(おだ)した。
「ごーたればばあめ。」
じじさは仕方(しかた)なく、山(やま)に行(い)った。
じじさは山(やま)につくと、
「団子(だんご)食(く)いたい、団子(だんご)食(く)いたい。」
まだいっていた。それでも手(て)のひらにあたしがにぎられているのをみて、ばばさのいった金(かね)もうけを思(おも)い出(だ)して、
「どの穴(あな)じゃ、どの穴(あな)じゃ。地蔵(じぞう)様(さま)とこに行(い)くのは、どの穴(あな)じゃ?」
と、うろろろ。
あたしは、じじさがかわいそうになったから、
「こっちじゃ、こっちじゃ。地蔵(じぞう)様(さま)とこ行(い)くのは、こっちじゃぞ。」
と、じじさを手(て)引(び)きしてやった。
じじさは、あたしの声(こえ)が聞(き)こえたか、
「おうおう。」
といって、あたしをころがした。
あたしは、ダンゴムシころ子(こ)だから、ころころところがって、穴(あな)に入(はい)ったよ。
ころころ、ころころ・・・じじさも
「ころ子(こ)、待(ま)ってれ。ころ子(こ)、待(ま)ってれ。」
といって、追(お)いかけて来(き)た。
じじさは地蔵(じぞう)様(さま)の前(まえ)に来(く)ると、
「地蔵様(じぞうさま)、地蔵様(じぞうさま)。こっちに団子(だんご)がころがってこんかったかいの。」
と聞(き)いた。
「いや、こねかった。」
地蔵様(じぞうさま)はすまして答(こた)えた。
「いんや、来(き)たはずだ。地蔵様(じぞうさま)は目(め)が悪(わる)いのう。ちょっと小(ちい)さい団子(だんご)だども、ようく見(み)ればわかる。小(ちい)さいけれども、ただの団子(だんご)じゃないぞ。栄養(えいよう)満点(まんてん)じゃあ。それ食(く)って、おれに金(かね)さずけてくだされ。」
「なんじゃ、じじさは金(かね)かせぎにきたのか。金(かね)なら、夜(よる)になったら、鬼(おに)が来(く)るから、鬼(おに)からもらえ。」
「あい、わかった。じゃあ、地蔵様(じぞうさま)。団子(だんご)ようく探(さが)して食(く)ってくだされ。」
そういわれて、地蔵様(じぞうさま)が団子(だんご)を探(さが)して、前(まえ)かがみになると、じじさはその地蔵様(じぞうさま)の背中(せなか)にぴょんと飛(と)び乗(の)って、天井(てんじょう)裏(うら)に上(あ)がった。
「うっひっひっひ、ひ。ここで待(ま)っていると、鬼(おに)が金(かね)、運(はこ)んでくるんだな。」
ごーつくじじさは、にんまりしていった。
地蔵様(じぞうさま)はしばらく、ちっちゃいダンゴムシのあたしを探(さが)していたが、あたしはちっゃくて、なかなか見(み)つけられないし、それに、あたしを食(た)べても、たぶん、はたらきもんばさの作(つく)った団子(だんご)よりもおいしくないだろ。
あたしはそっと柱(はしら)を登(のぼ)って屋根裏(やねうら)に行(い)ってみた。
ごーつくじじさはもう眠(ねむ)りこけていた。
夜(よる)になると、ゴーっと生(なま)あたたかい風(かぜ)がふいて、どこからか、赤(あか)鬼(おに)、青(あお)鬼(おに)、まだら鬼(おに)たちがやってきた。
ごーつくじじさはずっと眠(ねむ)りこけていて、だんだん、いびきが大(おお)きくなっていた。
ゴーっ、ゴーっ。ゴーつく、ゴーつく。ゴーっ、ゴーっ。
鬼(おに)たちは顔(かお)を見(み)あわせた。
「おい。あの音(おと)はなんじゃ。」
ゴーっ、ゴーっ。ゴーつく、ゴーつく。
「風(かぜ)の音(おと)じゃろう。」
赤(あか)鬼(おに)が外(そと)を見(み)にいったが、風(かぜ)は吹(ふ)いていなかった。
ゴーっ、ゴーっ。ゴーつく、ゴーつく。
「地蔵様(じぞうさま)がうなっていなさるだ。」
青(あお)鬼(おに)が見(み)にいくと、地蔵様(じぞうさま)は静(しず)かに目(め)を閉(と)じていた。
そして、鬼(おに)たちの頭(あたま)の上(うえ)で、
ゴーっ、ゴーっ。ゴーつく、ゴーつく。
ごーつくじじさのいびきはますます大(おお)きく響(ひび)いて、やむけはいがない。
ゴーっ、ゴーっ。ゴーつく、ゴーつく。ゴーつく、ゴーつく。
「気味(きみ)の悪(わる)い晩(ばん)だのう。」
鬼(おに)たちは、ごーつくじじさのいびきにおびえていた。
あたしは、ついでに鬼(おに)どもをからかいたくなった。
よし、目(め)つぶしだ。
えーい。
あたしは、弾(だん)丸(がん)になって、まだら鬼(おに)の顔(かお)を直撃(ちょくげき)。バシッ。
やったー。またも命中(めいちゅう)。
「いたたー、いたたー。えーん。」
まだら鬼(おに)は、情(なさ)けない声(こえ)で泣(な)き出(だ)した。
「いたいよ。こわいよ。えーん。えーん。」
まだら鬼(おに)はいつまでも泣(な)きやまない。
「きょうは、ばくちはやめだ。」
とうとう、親分(おやぶん)鬼(おに)は家来(けらい)の鬼(おに)たちに声(こえ)をかけた。
鬼(おに)どもは、すごすごと引(ひ)き上(あ)げていった。
コケコッコー。
一番鶏(いちばんどり)が鳴(な)いた。
ごーつくじじさは、まだいびきをかいて寝(ね)ていた。
ゴーっ、ゴーっ。ゴーつく、ゴーつく。ゴーっ、ゴーっ。
コケコッコー。コケコッコー。
二番鶏(にばんどり)、三番鶏(さんばんとり)が鳴(な)いた。
ようやく、ごーつくじじさは目(め)を覚(さ)ました。あくびをしながらいった。
「そろそろ鬼(おに)が出(で)て来(く)るころかのう。うっひっひ、ひ。」
なに、寝言(ねごと)いってるのじゃ。おまえが寝(ね)ている間(あいだ)に、もうとっくに鬼(おに)どもはねぐらに帰(かえ)ったわ。
ごーつくじじさは、寝(ね)るのもごーつくばりじゃ。いっぱい寝(ね)たのう。
そこへ、
「おはようございます。」
外(そと)から、明(あか)るい声(こえ)がした。
「おっ、来(き)たぞ、来(き)たぞ。鬼(おに)が金(かね)持(も)って来(き)たぞ。」
ごーつくじじさは、外(そと)に飛(と)び出(だ)して行(い)った。
「なーんだ、おまえはとなりのはたらきもんじさじゃないか。鬼(おに)が金(かね)、運(はこ)んできたのじゃないのか。」
「となりのじじさま。おはようございます。このまえ、地蔵様(じぞうさま)に福(ふく)をいただいたで、お礼(れい)に団子(だんご)をもってきたのじゃ。地蔵様(じぞうさま)、ありがとうございました。」
はたらきもんじさは地蔵様(じぞうさま)にたーんと団子(だんご)をおそなえした。
地蔵様(じぞうさま)は
「おう、よう来(き)たのう。おまえんとこの団子(だんご)はうんまい団子(だんご)じゃった。それ、ごーつくじじさも一緒(いっしょ)に食(た)べよう。」
「おお、うまげだ。団子(だんご)じゃ。ほんもの団子(だんご)じゃ。むしゃむしゃ、むしゃ。」
ごーつくじじさは、夢中(むちゅう)になって団子(だんご)をほおばった。
「うんまい、うんまい。」
地蔵様(じぞうさま)も、
「うんまい、うんまい。」
地蔵様(じぞうさま)とごーつくじじさは、ほんもの団子(だんご)を、食(た)べた、食(た)べた。
「うんまい団子(だんご)じゃ。はたらきもんばさの作(つく)った団子(だんご)はうんまいのう。ほっぺたがおっこちるわ。おまえのとこのばばさにも土産(みやげ)にもっていってやれ。」
地蔵様(じぞうさま)は、ごーつくじじさに、いいなさった。
ごーつくじじさは、鬼(おに)の金(かね)はもらえなかったが、うんまい団子(だんご)を食(た)べて、土産(みやげ)ももらって、ばばさのところに帰(かえ)った。
あたしはダンゴムシころ子(こ)でほんもの団子(だんご)じゃないから、地蔵様(じぞうさま)に食(た)べられないでよかったよ。
ごーたればばさも、ほんものの、うんまい団子(だんご)を食(た)べておくれ。
おしまい
令和(れいわ)三年(さんねん)霜月(しもつき) 初雪(はつゆき)の便(たよ)り
作 楯 よう子
切り絵 きらら
本作品 「ダンゴムシころ子の語り」
朗読動画収録 2022年7月20日
https://www.youtube.com/watch?v=AF5x-mvv2n0&t=5s
種本 「団子ころころ」
新潟のむかし話 心をうたれてじーんとする話
朗読動画収録 2020年3月15日
ブログ 「転がる団子 押し込む団子」
令和2年弥生 夜が明けると4月
https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/03/31/124516
令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間
ホームページ http://yuukyuujyou.starfree.jp/
works旅の声 http://yuukyuujyou.starfree.jp/works.html
blog語り部のささやき http://yuukyuujyou.starfree.jp/blog.html