高齢者施設で紙芝居をしたとき、「宝物をもらえる話がいい」と言われたことがあった。
たいていの人は「大判小判がざっくざく・・」と聞くとうれしくなるものだ。
はなさかじいさん、ももたろう、たのきゅう、かさじぞう、たこやたこざえもん、したきりすずめ・・・みんな主人公はお金持ちになって、めでたい。
昔話で、お宝を得ることができたのは、金目のものを探し求めたからではなく、主人公のおじいさんたちがいい人で、それまで善い行いをしてきていたから、そのご褒美として、思いがけず富を授かったもののようである。
ところで、新潟のむかし話2の「夢買長者」ではどうか?
ここでは、前記の昔話などとは違っていて、目的志向性がはっきりしている。わけえあんちゃんは、はじめから黄金(こがね)にねらいを定めているのである。そして年余の努力の末に、黄金を手に入れるのである。
次のステップにまとめられる。
1 気づき
年取ったあんちゃんの夢の話を聞いただけでは、だれも現実のこととは思わない。
ただ、弟は、兄の鼻の穴を出入りする虻の動きとの一致に気づいたのである。
2 夢買い
後日、権利関係でもめないように、あらかじめ手続きをしておいた。
3 密やかな行動開始
目的を胸に秘め、こっそりと現地におもむき、さりげなく調査を始めた。
アピールはNG!
4 誠心誠意
一生懸命働き、雇主の信頼を得ていた。警戒されたり、怪しまれたりしてはいけない。
5 目的意識の保持
春になって白い花が見つからなくても、がっかりせずに来年を待った。
6 十分な確信を得てからの実行
たくさんの白い花が咲くのを見届けてから、人目につかないように木の下を掘った。
7 跡を濁さず
土をもとにもどし、金甕を隠した。自分の行いで生態系を乱さない。
8 丹念な仕上げ
さらに半年、何事もないように過ごした。
9 安全の確認
金甕が堀り出されても誰も困っていないことを確かめたのち、金甕を荷物に入れ、現地を去った。
10 成果
郷里に帰り、長者となった。
このわけえあんちゃんの特性として特に素晴らしいのは、
① 気づきを持てること。
④ 誠実な態度で周囲の信頼を得たこと。
⑤ 信じて待つことができること。
⑧ 慎重の上にも慎重に行動できること。
などだろう。
これらの態度があれば、宝さがしだけでなく、どの分野でも成功しそうだと、わたしは思う。
令和2年長月 まだまだ猛暑日
切り絵 悠久城絵師 きらら こと 酒井晃
悠久城風の間 http://yuukyuujyou.starfree.jp/
Works 旅の声 2020年9月 6日収録
新潟のむかし話2「夢買長者」
ふしぎさにひきこまれる話 新潟県小学校図書館協議会編2006年
https://www.youtube.com/watch?v=x02oLIvqEic