わたしは常々、面白い紙芝居を求めて図書館をうろついたりしているのだ。
だから、ネット上で紙芝居「走れメロス」の存在を知ったとき、意外に思ったのだった。
なんだ、「走れメロス」の紙芝居があったの。なぜ、わたしの眼にとまらなかったのかしらと。
図書館に借りに行ってわかった。それは閉架式書架にしまわれていたのだった。
??? わたしの頭の中に疑問符が点滅した。メロスがどうしてわざわざ閉架式に?
外観からは他の紙芝居と遜色のない装丁であり、特別豪華というわけではない。触ったら崩れてしまいそうなほど傷んでもいない。むしろきれいだ。鈴木出版から出されたもので、脚本は多数の著書のある児童文学作家、西本鶏介、絵はこれまた、たくさんの絵本や紙芝居を描いている宮本忠夫(わたしはこの人の「とりのみじっちゃ」の絵がすごく好きだ。もっともメロスでは古代ギリシャ風で作風はだいぶ違っている)・・・
読んでみて、ああそうかと思った。利用頻度が少なかったから、メロスは奥の閉架式に追いやられてしまったのだろう・・・(もっともこれは当市の中央図書館の話で、ここだけの事情によるのかもしれないが・・)
名作児童文学紙芝居となっているが、児童にはこの紙芝居は難し過ぎるだろう。
なにしろ20枚と長い。(多くの紙芝居は12枚か16枚だ)文字面は毎ページ毎ページ、文字がぎっしり。とにかく文字数が多い。太宰の原作は朗読すると、35分。この紙芝居を演じると23分10秒。(紙芝居は、短いもので4分。10分前後のものが多い)この紙芝居「走れメロス」はかなり原作に忠実である。
原作がすばらしくても、紙芝居としてどう提供するかは、また別の難しさがあるだろう。
まず、対象者をどう定めるか?
わたしは「走れメロス」を高校一年の現代国語の教科書で見た気がした。同学年の人に聞くと高校ではなく、中学だったという。彼は読書感想文を書いたというから、彼の記憶の方が確かだろう。「走れメロス」は長年中学校の国語の教科書の定番となっていると聞く。
いずれにせよ「走れメロス」は誠実に生きることについて、友情について、真剣に考えようとする中高生にぴったりな読み物だ。しかし中高生なら小説として読むことができ、そして中高校生はあまり紙芝居を見る機会がない。
紙芝居が使われるのは幼児や小学校低学年が多い。しかし、年少者向けにするには、この紙芝居は、原作に近く言葉数が多く長く、かつ難しい。紙芝居はだいたいが短い会話で成り立っているが、この作品は情景描写と独白が長い。デイサービスに通う高齢者に対しては、真実の愛だ、友情だ、というより、もっと柔らかい話が受けそうである。
作品の対象となる年代は紙芝居を見ないし、紙芝居の対象となる人達には作品の内容が硬く難しすぎる。
そして、聴き手以上に困難なのが読み手のほうである。
演じ手がうまければ、若年者でも高齢者でも、作品の良さを味わうことができると思うが、
何度もいうようにこのメロスは長く、かつ難しい。誰にでもわかるように(できたら感動を伝えられるように)この紙芝居を読みこなすのは大変である。もっと軽い話で聴衆を笑わせたりして楽しませることができるのに、あえてこのメロスを選んで読もうとする人が当市で少ないのは無理もない気がした。
演じ手一人では難しいから、メロスは朗読劇などがいいのかもしれない。
もちろん、いろんな紙芝居があっていいと思うのだが、できたら広い層に受け入れられ、より多く利用できるようにするためには、どうであればいいのかなど考えたりしながら、メロスを閉架式書架に返したのだった。
令和2年睦月 1片の雪なく雨の続く日
みんなで仲良くする睦月に紙芝居の明日を考えた
悠久城風の間 http://yuukyuujyou.starfree.jp/
Works 旅の声 2020年 1月 3日収録
https://www.youtube.com/watch?v=rfK9vphIjEA&t=386s