悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

「いとーしげだ・・」

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わたしが「ばば皮」を気に入ってしまったのは無理もないことだ。

わたしの好きな言葉が出てくるからだ。

 

「いとーしげだ・・」この言葉を耳にしなくなってどのくらいたつのだろう。

わたしの祖母はわたしが小さいときに、わたしによくそう言ってくれていたのだ。

祖母はいつもにこにこと目を細めてそう言った。

「いとーしげだ・・」

(祖母は「いとしげだ」ではなく「いとーしげだ・・」と言った)

祖母の初めての女の孫であったわたしは、確かに祖母にとって愛しいものであっただろう。

祖母の笑顔と「いとーしげだ・・」はわたしの中で結びついている。祖母の楽しさとわたしのうれしさが結びついている。

褒めて育てるということを聞くことがあるが、わたしは褒められていたのではない。祖母の喜びを感じていたのだと思う。そのことがわたしをうれしくさせた。祖母が喜んでいることをうれしく感じ、祖母に喜びを感じさせた自分をうれしく感じただろう。

そうか。だからだ。

わたしは小さいときに祖母から「いとーしげだ・・」と言われていたのだから、だから今さら(たとえばS氏に)「美人でないうんぬん・・」とか言われたとしても、その他自分に関する否定的な評価を聞いたところで、大して動ずることがないのだ。わたしは「いとーしげだ・・」なのだから。

祖母の「いとーしげだ・・」はわたしに確固たる自己肯定感を(少なくともその土台を)つくってくれていたのだと思う。

もうはるか昔のことになるが、祖母の発した「いとーしげだ・・」は、無条件の喜びとともにわたしに伝えられ、今もわたしの中で生きている。

 

令和2年睦月 晴れ間からあられが降ってきた日

集いあった遠い睦月の日を思い出して

 

悠久城風の間   http://yuukyuujyou.starfree.jp/

 

Works 旅の声 2020年 1月 20日収録 

「ばば皮」新潟のむかし話 新潟県学校図書館協議会編

https://youtu.be/ksXCjIigUks