民話「ホトトギスと兄弟」この話も各地に伝えられている。
弟がうまいものを食べていると邪推した兄が、弟を殺して弟の腹の中を見るというのもあるが、新潟のむかし話では、子供たちに読ませるのに、兄が弟を殺すのではあんまりだからと、弟が自ら腹を裂いたことにしたのか・・
いずれにしろ弟は死んでしまっている。そして後悔した兄は泣いて泣いてホトトギスになり、昼も夜も鳴き続ける。悲惨な結末とホトトギスの鳴き声は変わらない。
もともと仲のいい兄弟だったから、弟は病気の兄を心配して兄に自然薯のおいしいところを食べさせた。そして自分は残ったクズばかり食べていたのだ。しかも、自分がクズばかり食べていることを兄に知られると兄に余計な心配をかけるからと、隠れて食べていたのだ。
しかし、隠れて行っていることというのは、なんとなく兄に感じられる。兄は、弟が隠れて食べているのは、自分には食べさせないうまいものを弟が一人で食べているのではないかと勘繰った。体を病み、ずっと臥せっていたら、明るいことは考えない。体が萎えたら、気持ちも萎える。自分はこの先、生きていけるだろうか?生きていけないのではないか・・・生きていけないだろう・・心はいじけてくる。その時、弟が兄の目をはばかる動きを・・・不審に思う兄。おらに隠れておじは何かしているぞ・・・
よくわからないことに対して、人はなんだろうと起こりうる可能性を考えるが、体が弱っているときは、考えうる中で最もネガテイブな推量を選択する。あるいは、兄は自分はこの先生きていけるかと心配していたから、食べることに強い執着を持っていたかもしれない。自分はずっと床に伏していたから、元気に働き続ける弟をうらやむ気持ちから、弟に対する敵対心もでてきたのか?
兄の疑いはますます深くなっていく。そうすると、もう、弟が、兄の食べ残ししか食べていないと説明しても、聞き入れることはできなくなっていた。
やさしい弟が兄を気遣い、クズを食べることを兄に隠れて行うのは、ありそうなことだ。また、寝ている兄が、弟ばかりうまいものを食べているのではないかと疑うこともありがちなことだ。仲のいい兄弟でも一人が長く患うことになると、互いの気持ちが通いにくくなることもよくあることだろう。
ただ、兄は疑いを深くしていってほしくはなかった。弟は、すぐに腹を裂かないでほしかった。
どうしたらよかったのだろう。どうしたら、仲のよかった時の兄と弟に、また帰れたのか?
ときどき、わたしたちも話がこじれて、また関係がこじれて、問題が複雑で、あるいはまったく未知の事柄で、うまく先に進めなくなることがある。わけのわからない時には、最悪の事態を想定して、事を決めるのも一つの大切な選択だ。冷静な判断ができているならば、それでいい。しかし、暗くねじくれた推量からは、未来は築けない。
ホトトギスは一日に八千八声鳴くという。
「おじ恋しい。おじ恋しい」と鳴き続けているのか・・・
困ったときには、原点に立ち帰って、どうであればいいのかを考えるようにと、告げているようだ・・・・
令和2年皐月 心晴れやかなはずの日々・・
令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間ホームぺージ
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Works 旅の声 http://yuukyuujyou.starfree.jp/works.html
2020年5月8日収録
新潟のむかし話「ホトトギスと兄弟」