悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

かっかー三枚の守り札の語り

新潟のむかし話2000年「三枚のお札」の伝えるところによると・・・

花摘みに出かけて道に迷った小僧が、一夜の宿を乞うた山の一軒家のばさ。夜中になるとニタニタして、包丁を研ぎ出した。やさしげに見えたが、実は、恐ろしい人食い山姥だった。逃げようとする小僧をつかまえて、小僧のほっぺたやくりくり頭をベロンベロンと舐めだした。なんとか便所に逃れて震えている小僧に、せんちの神さまは、三枚のお札を与える・・・・・

と、なっているのだったが、果たして、三枚のお札は、誰に与えられたものだったのだろうか?

天下り かっかー 鬼婆になっての語り」で、鬼婆が、木のからとに入って目を閉じてから、はや数百年の時が流れていた。

どっこらしょ。わらわは、木のからとから出た。今は、なんどきじゃろう、のう。あたりをみまわしても、しーんとしておるぞ。

「小太郎、小太郎―。」

呼んでみたが、小太郎は返事をせぬ。

やっぱり、わらわが、小太郎を食べてしまったのか、のう。

やれやれ。うかつじゃったのう。

わらわは、うれしくなるとすぐ大口を開けてしまうのじゃ。小太郎を食うてしまうとはのう。まあ、わらわの腹にもどったのだったら、小太郎も、うらんではおるまい。わらわも安心じゃ。小太郎が、わらわの腹にいるとなればな。

外はもう、秋じゃった。わらわは、山で栗拾いをした。栗を煮て食べよう。腹の中の小太郎も喜ぶじゃろう。

ゆんべになって、土間で栗を鍋に入れて煮ていると、

トントン、トントン。

戸を叩くものがおる。

はて、だれじゃろう。

見ると、花束を持った、くりくりあたまの小僧じゃった。

「ばさ、花摘みに出て、日がくれてしもた。今晩一晩泊めてもらわんねろっか?」

「むむむ?お前は小太郎か?かっかーのところに帰ってきてくれたのか?ちと、若返ったようだのう。頭もくりくり坊主にしおって。」

「あーん?こたろう?ん?ん?」

小太郎は変な顔をした。

「まあ、あがれ、あがれ。おまえのうちじゃ。」

小太郎はすごすごと入って来た。小太郎は、いつ、わらわの腹から出たのじゃろう、のう。

「どこに、いっておったのじゃ?」

「おら、寺に預けられておるのじゃ。きょうは、和尚さまにいいつかって、花摘みじゃ。」

「鯖売りはどうなったのじゃ?」

「鯖売り?おら、ずっと寺で修業じゃ。」

「なに?寺で奉公しておったのか?それにしても、よう若返ったものよのう。」

「ばさ、おら、もう寝かしてくろ。」

小太郎は、めんどくさそうにいった。

「おお、寝れ、寝れ。」

わらわは小太郎をふとんに追いやった。

それにしても、おかしな子じゃのう。小太郎は鯖売りになって、塩鯖を持って帰ってきてくれたのじゃったがのう。そうじゃ、かくれんぼをしていて、わららの腹にはいったのじゃ。そして、また、わらわが寝ている間に腹から出て、和尚さまのところに修行にいっていたのかのう。道に迷うてしもうて、歩き回っておったのだ、かっか―の家が見つからなかったんだのう。帰れなくなって、なんぎだった、のう。かくれんぼのやりすぎじゃ。やっとこすっとこ、帰ってこれたのじゃ。よく帰った。でかしたぞ。小太郎。

かっか―の家で、ゆっくり寝てくれ。

わらわは、栗の皮むきじゃ。あした、小太郎が、目をさましたら、食べさせてやろうぞ。

おっととと・・栗の皮むきは、めんどうじゃ。わらわは不器用でのう。

ううう、ううう。皮が硬いのう。切れない包丁じゃあ。わらわは包丁を握る手に力を入れた。

ううう、うう。

すると、ふすまのむこうでも

ううう、うう。

うなり声が聞こえるぞ。

「おにばばじゃ、おっかなーい、おっかなーい。おにばばじゃ。」

小太郎がふすまの穴からのぞいて、ふるえておるのじゃ。

わらわは、栗の皮むき、めんどうでのう。この時には、どうしても歯をくいしばって、髪を振り乱してしまうのじゃ。それで、わらわは、おっとろしいおにばばの顔になっているのかのう。

そのとき、切ろうとした栗が、すべって飛んだ。

びゅっ!

ビシッ!

「いたたたー。」

あッ、なんと、こともあろうに、栗は小太郎の額を直撃。

「かんべん、かんべん。痛かったか。栗が飛んだのう。小太郎、こわかったのか?かっかーがこわがらせたのか?こわがらなくてもいいぞ。この包丁が切れなくて栗が飛んだのじゃ。」

わらわは、包丁を持ったまま、小太郎の頭をなでようと手を伸ばした。

「ひえー。かんべんしてくれ。」

小太郎のからだは、わらわの手が小太郎の頭に触る前に、すっ飛んだ。

「どこに行くんだ。小太郎。」

「便所じゃあ。」

「待て、待て。」

小太郎は外のせんちに入って、しばらく出てこなかった。

「小太郎。まだか。」

「まだ、まだ。」

「小太郎。まだか。」

わらわは、小太郎が迷子にならないように、せんちの前でしっかりと小太郎を待った。小さい時には、ひとりでせんちにいくのを怖がったものよ、のう。

「小太郎、かっかーがここにおるから、心配いらないぞ。ゆっくりでいいぞ。」

「いま、出る。」

小太郎は、せんちから出て来て、

「おら、もう帰らしてけろ。」

小さな声でいった。

「小太郎。栗ご飯食べてから帰れ。」

「おら、食べられね。和尚さまが、ばばに食べられるなといいなさったで。」

「そうか。今夜一晩、かっかーと寝てくれ。」

「おら、もう、ねむたくなくなった。」

そうか。小太郎は、もう赤子でないからのう。寺で修業をしておるのか。

よしよし。和尚さまのところで修業の身じゃあ。いつまでもかっかーのうちで休んでいられんか、のう。修行にもどらねばならぬのか、のう。

夜が明けるのを待てというのにかまわず、小太郎は、暗いうちに家を出た。

いちずな子よ、のう。さすが、てんじゅく生まれのわらわの子じゃ。

小太郎の姿が夜の闇に消えようとしたとき、

そうだ。お守りじゃ。小太郎にお守りを持たせねば。

わらわは、はたと気づいたぞ。お守りじゃ、お守りじゃ。

「待て、小太郎。」

小太郎の姿は、もう見えなくなっていた。

「おーい。待てー。」

わらわは、せんちの神様の守り札を握りしめて、小太郎を追いかけた。

小太郎はこれから、修行じゃ。まだ、あんなに幼い子どもなのにのう。

山越え、川越え、命がけの修行じゃ。

「おーい。小太郎。せんちの神様のお守りじゃ。」

これを持っていれば、命を落とさずにすむのじゃ。山越え、川越え、せんちに落ちずに、かっかーのところにもどれるのじゃ。

小太郎が赤子のとき、わらわは、せんちでふんばった拍子に、便つぼの中にお前を落としてしもうたのじゃ。それを救い上げてくれたのが、せんちの神様じゃった。せんちの神様のおかげて、お前は、かっかーのもとにもどれたのじゃ。それ以来、わらわは、毎日、せんちの神さまにお礼を申し上げておるぞ。

ある日、せんちの神さまが出てきなさって、

「このお札をやるすけ、心配するな。このお札があれば、おまえのこどもは、必ず、無事に帰ってくるぞ。」

といいなさったんじゃ。ありがたや、ありがたや。せんちの神さまの守り札じゃあ。

「さあ、小太郎、せんちの神様の守り札、これを持っていってくれ。」

わらわは、やっと小太郎に追いついた。

しかし、小太郎は、振り返らなかった。

「小太郎、待つんだ。」

すると小太郎は、ぶるっと体を震わせた。小太郎は叫んだ。

「ああ、大山だー。」

突然、小太郎の目の前に、大山がたちふさがった。

わらわは急いで、守り札を小太郎に投げつけた。

「さあー、小太郎、大山を越えるのじゃ。」

小太郎は、ワシワシと必死に山を登った。汗みずくになって、山を越えて走った。はやいのなんのって。すごい。いいぞ。小太郎、その調子じゃ。かっこいいのう。さすが、わが息子じゃ。小太郎はなおも、走った。わらわも走った。

そして、しばらくいくと、小太郎は叫んだ。

「ああ、大川だー。」

ゴンゴン、ゴンゴンと大水が出てきて、ゴウゴウ流れる大川になって、小太郎の前にたちふさがった。

わらわは急いで、守り札を小太郎に投げつけた。

「さあ、小太郎。大川を越えて進むのじゃ。」

小太郎は、ザブザブザブ、ガボガボガボと、大川を渡った。そして、さらに懸命に走った。おお、おお、その調子じゃあ。小太郎は強い子じゃのう。

小太郎。おまえは、大山を越え大川を越え進んでいくのじゃ。大山にも大川にも負けぬ強い子じゃ。その調子じゃ。その調子で進んでいけよ。どんどん、いくのじゃ。どんどん、どんどん。

じゃが、どんどん、調子づいて、せんちの便つぼには、落ちるなよ。

わらわは、3枚目の守り札を、小太郎の背中に向かって投げた。守り札は、小太郎の背中に張り付いた。

「小太郎、せんちの神さまの守り札を落とすな。せんちに落ちるなー。命を落とすでないぞー。せんちの神様の守り札が、お前を守ってくれるぞ。思いっ切り修行を積んで、また、かっかーのところに、もどってくるのじゃ。」

「小太郎、元気でなー。」

「こたろー、こたろー。」

わらわは、いつまでも小太郎を見送っていた。

もう、東の空が明らんでいた。

おしまい

令和4年 晩秋

本作品 越後おとぎ話第23話 

「かっかー三枚の守り札の語り」

朗読動画収録2023年5月28日

https://www.youtube.com/watch?v=10NjzUECBpo

箱庭劇場出演 

ばば  岸正規鳴子こけし    

小僧  Muggsie made in Korea

 

種本  「三枚のお札」

     新潟のむかし話  こわくてふるえる話 

     新潟県学校図書館協議会編2000年

     朗読動画収録 2020年 3月28日

https://www.youtube.com/watch?v=RIeK2ZrIBHo&t=20s

 

Blog 「都会のトイレに三枚のお札はあるか?」

   令和2年卯月 桜咲く中、都市の叫びは聞こえるか?

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/04/07/192510

 

類話  「三枚のお札」     

   読みがたり新潟のむかし話 2000年

   朗読動画収録2023年1月15日収録

テーマ曲 ♪ 「むむむ、三枚のお札」 

今年で終わりだ。大殺界。ご苦労さまです、細木さん。
新年、うちには、熊手もあるよ。平潟神社のお札付き。家内安全よろしくね。
おみくじ引けば大吉だ。豊かな恵、かたじけない。
むむむむむ、むむむむむ 不義で身を過つとな?むむむむ、むむ。
やっと終わりの大殺界。ところが、どっこい。今度は、厄年始まり、八方ふさがり。ギョギョギョのギョ。
お札だ、お札だ、三枚のお札。出雲、住吉、白山さまよ。山越え、川越え、火遊びしない。悪運さよなら、よろず神様、よろしくね♪  お願いね♪
https://www.youtube.com/watch?v=zIwYhB3GfGs

 

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