悠久城風の間 blog語り部のささやき

悠久城風の間の語り部 楯よう子のささやき

天人ばば見てよの夢語り

越後おとぎ話 第27話   「天人ばば見てよの夢語り」

わらわは、昔は、天人女房とよばれておったものじゃがのう。今じゃ、天人ばばじゃ。小太郎に会えぬまま、一人、山の岩屋で暮らしておったぞ。小太郎が家を出てから何百年たったのかのう。この頃は、わらわの岩屋の近くまでやって来る旅のもんもおらんようになってしもうてのう。食べる物にもことかくありさまじゃ。

そんな折、神さまの巫女をしておったネコミーコが社の門番に追い出されて、わらわの岩屋に迷いこんできおったのじゃ。ミーコはかわいげで賢いネコじゃ。わらわのいい話相手になったし、なにより、ミーコは、わらわに食べ物も運んできてくれるのじゃよ。

ある嵐の晩のことじゃ。だれか来たようだとミーコが見に行った。戸口の前に立っていたのは、ずぶ濡れになったあんにゃさだった。

「おら、村の木こりだども、この大風と大雨で、どうにもこうにも、家に帰られんようになってしもた。今夜一晩、泊めてもらわんねろか?」

ミーコの目がキラキラ光った。

「ばばさま、客人でミャーオ。」

わらわは言った。

「おお、大変な目にあわれましたな、木こりさん。どうぞ、どうぞ。こんなところでよかったら、ゆっくりお泊りなされ。」

ミーコに導かれて、木こりは岩屋の奥に入って休んだ。

翌朝、風と雨は止んでいた。ところが、嵐のあとの山々は木々が倒され、地崩れがあったり、大水が出て川があふれて橋が流されたりと、あたりは様変わりしておったのじゃ。

近くを見てまわって、ミーコは言った。

「木こりさん。これは、村に帰るのは難しそうじゃ、ミャーオ。しばらく、ここで様子をみなされ。」

ミーコは木の実を集めてきて、木こりの前に置いた。

「橋が流されたのではのう。今、帰るのは危ないのう。遠慮せずに、ここで休んでおりなされ。」

わらわも、にっこりして、木こりに言った。

木こりは、おずおずとして、それでも木の実を食べ始めた。

しばらくすると、木こりはうとうととし始めた。

わらわとミーコは、思わず顔をみあわせて、にんまりしたぞ。

「さあ、ミーコ。木こりに、ゆっくり見せてやるのじゃ。冬になるまで、夢を見続けてもらうのじゃ。」

「ミャーオ、ばばさま。かしこまりました。正月に食べごろになるように、いい夢を見せてやりましょう。ミャオ、ミャオ。」

ミーコは、久しぶりの客人に、はしゃいでいた。

神さまの巫女をしていただけのことはあって(越後おとぎ話第10話「ネコ巫女ミーコの語り」参照)、ミーコは、夢見の案内は得意中の得意なのじゃ。

いい夢を見せてやると、木こりはいい味になるじゃろう。わらわは、もうよだれがあふれてきていた。

木こりは、ぐっすり寝入っていた。

「木こりさん、ようこそ、おいでなさいました、ミャーオ。ここは、天じゅく夢見の間でございます。天じゅく国の楽しさを、たっぷりとご覧なさいませ、ミャーア。」

ミーコは木こりの眠りに入りこんで、張り切って案内を始めたぞ。

「まず、はじめは、天じゅくネズミの登場、ミャオ。」

天じゅくネズミは、温泉につかってゆっくり泳いでいたのじゃ。ふっくらとした天じゅくネズミの体は温泉で泳げば泳ぐほど、ふっくらとしてくるのじゃ。みるみるうちにウシほどの大きさにふくらんできた。すると、見ていた木こりも手足を動かし泳ぎ始めたぞ。ふふふ、楽しげだの。泳げ泳げ。木こりの体もふっくらしてくるぞ。ふっくら、柔らか・・うまげだのう・・・

 

「次なるは、ウシモーモー、ご覧あれー。ミャーオ。」

ミーコは、広い野原に木こりを案内した。そこでは、ウシモーモーがのんびり草を食んでいた。木こりは、ウシモーモーをみているうちに、いっしょに口をもぐもぐし始めたぞ。天じゅくの草を食めば、病気にならずに、いつまでも年をとらないのじゃ。ふふふ、いつまでも若いからだのままになるのじゃよ。よーく噛めよ、木こりさん。

 

「さあて、三番手トラ、ミャオミャオ。」ミーコは続けた。

トラは、風を従えて、一晩で何千里も駆け巡るのじゃ。天じゅく国を駆け抜けて月までもいけるのじゃ。木こりは、トラのしなやかな体の動きと速さにあっけにとられ、ぼんやり大口開けてながめていた。木こりさんよ、トラの強さをそなたのものにするのじゃ。骨の髄まで薬になるトラの姿を、しっかり見て吸い込むのじゃ。そなたの脳みそに沁み込ませるのじゃぞ。そうすると、ふふふふ・・・そなたが強いからだのトラになるのじゃ・・

 

「四番、ウサギピョンピョン、ミャーオ。」

ウサギは、天じゅく国で一番の心やさしい動物じゃ。あわれな旅の老人に食べ物をあげることができなかった。すると、ウサギはわが身をさし出したのじゃ。わが身を火に投じたあと、その魂は月に昇って、不老不死の薬を調合しておるというぞ。さあ、薬壺から立ち昇っている、あの煙をかいでみよ。おお、ありがたや、ありがたや。木こりさん、そなたもウサギに負けない清らかな心となって、その身を捧げるのじゃ。・・・わらわに・・・

 

「五番、タツどん、ミャオ。」

タツは、雲の上にからだを横たえて、地上を見下ろしておるぞ。地面が干からびれば、雨を降らせるし、その一息で、海水を沸き立たせることもできるのじゃ。天じゅく国のどこへでも、翼を広げてひとっ飛びじゃ。あれっ、タツどんの雲に誰かのっているぞ。おお、あれは木こりのあんにゃさか?そなたは、もうタツの力も、得たのか?よしよし。うまいぞ、ミーコ。でかしたぞ。

 

「六番、クネクネヘビ、ミャオミャオ。」

優雅な姿で、水の中を泳いだり、地面を素早く這って進んだり。みごとな体の動き。えもいわれぬあやしい美しさじゃ。そして、その目でにらまれたら、もうだれもが動けなくなる。おそろしいほどのヘビの魔力。おや、木こりも、クネクネ、ニョロニョロ動き始めたぞ。よーし、いいぞ、いいぞ。その調子じゃ。そなたのからだにもヘビの美しさと魔力が、宿ってくるのじゃ。わらわの胸は、せつなく高鳴り、それから腹も鳴ってきた・・・グーグー・・

 

「七番、ウマどん、ミャーオ。」

草原にひづめの音が響いた。土煙を上げて、ウマが走っている。力強く、地面を蹴って、どこまでも、まっすぐに。ウマのたくましさ、かっこいいのう。木こりも、草原を走り抜けたくなったようだ。風を切って。ふふふ、木こりのあんにゃさよ。そなたがウマだよ。そなたが走っているんじゃ。わらわの声は木こりには届かないが、木こりは、ウマになって走っていた。いい筋肉だのー。とびっきり上等な馬肉じゃー。

 

「八番、ヒツジ、ミャオミャオ。」

牧場でヒツジたちが、メー、メーと鳴いていた。メ―、メ―、メ―。

木こりはヒツジの鳴き声を、5回聞くと、

ゴー、ゴー・・・もういびきをかき出した。

おいおい、ミーコ、眠らせすぎだよ。いいところまできたのに、永遠の眠りにするにはまだ、早いぞ。師走までにはまだ時間がある。もっと、夢見を続けるのじゃ。もっと、もっと、うまい肉にするのじゃ。

 

「はーい、ばばさま。ミャーオ。では、続いては、九番、サルどんの登場。ミャー。」

キャッキャッキャッのサルの鳴き声で、木こりは、また夢見にもどった。サルたちは、にぎやかにおしゃべりしていた。サルたちは陽気にしゃべり続け、木こりを仲間に加えてくれた。木こりさん。そなたも陽気で元気なサルじゃ。ふふふ・・・よし、よし。いいながめだ。・・・わらわも、力がわいてくるようじゃ・・・いい味がでるじゃろう。甘さと塩味と辛みが、ほどよく、わらわの舌にのって・・ズルズルズル・・・

 

「十番、ニワトリどん、ミャーオ。」

ニワトリがコケコッコーと、時を告げた。赤いトサカが震えていた。なんていい鳴き声だ。なんて優美な姿じゃあ。木こりもいっしょに、のどを震わせ、頭を震わせた。その調子。鳴いて鳴いて、そなたはニワトリになるのじゃ。そなたは時を告げる美しいニワトリ。そして、そなたのムネもモモも、さらに美しく・・ムネ肉、モモ肉は、やがて熟成していくのじゃ・・

 

「十一番、イヌどん、ミャーオ、ミャオ。」

ワオー、ワオーと遠吠えが聞こえる。頼もしいぞ、イヌどん。よし、イヌどんに続け。木こりは自分もイヌになって、ワオーと吠えた。よし、よし。そなたは忠実なイヌ。わらわの期待を裏切らぬいい味になってきたかの。わらわの期待を越えた、とびっきりの味になってもいいがの・・・ふふふ。

もうじき十二支がそろうぞ。木こりの脳みそで、大晦日まで味噌漬けにするのじゃ。十二支の動物がそれぞれの味を出して、十二支が混ざり合って、てんじゅくの、こくとうまみになるのじゃ。正月が楽しみじゃなあ。うふふふふ。

 

ミーコは一段と声を張り上げた。

「十二番は、イノシシどん、ミャオー。」

最後にあらわれたのが、イノシシどん。かわいい顔で毛皮もきれいじゃ。木こりは、思わず、手を伸ばしてイノシシに触れた。イノシシは、おとなしくうつむいていた。木こりはしあわせな気持ちになって、また撫でた。すると急に、イノシシは地面に穴を掘りはじめた。あっという間に穴が深くなり、イノシシは穴にもぐって見えなくなった。

なんということじゃ、ミーコ。イノシシが見えなくなったぞ。イノシシを撫でてはならぬのじゃ。わらわは、ミーコに伝えてなかった。イノシシには、触ってはならぬのじゃ。イノシシは内弁慶の恥ずかしがり屋じゃ。いきなり触れられると逃げるのじゃっ。

地面に穴を残したまま、イノシシの姿は消えていた。

「どうしたんじゃ? どうしたんじゃ??」

と、木こりはきょとんとしていた。

「ミーコ、早く穴をふさぐのじゃ。」

わらわは檄を飛ばした。

「ミャー、ミャー。ばばさま。ただいま、すぐに。」

ミーコは慌てて、穴をふさごうとした。遅かった。ミーコの返事よりも早く、木こりはイノシシを追って穴にもぐっていた。穴をくぐると、そこはもう、夢見の間ではなかった。

夢を破って、木こりは、すっかり目覚めていた。

気づくと岩屋の奥にまで、日がさしていた。

「いい天気になったから、おら、家に帰れそうだ。」

そのまま、木こりは、イノシシのごとく、猪突猛進。岩屋を後にした。

わらわは、茫然として、遠ざかっていく木こりの後ろ姿をながめた。よだれだけが長く、わらわの口とミーコの口から、地面に垂れていた。

 

ミャーオー。

ミーコの鳴き声が、悲しげに、岩屋の中にこだました。

遠くの山では、新雪がキラキラと日に輝いていた。

 

おしまい

 

令和5年 続く残暑の中で

 

本作品 越後おとぎ話 第27話 

「天人ばば見てよの夢語り」

箱庭劇場 2023年10月9日収録

???

作・朗読      楯よう子

出演 

ミーコ;  ネコ2 リサラーソン

木こり:  Muggsie made in Korea

ネズミ ウシ ウマ サル イヌ イノシシ:

      きめこみパッチワーク 干支シリーズ

トラ ウサギ タツ ヘビ ヒツジ トリ:

薬師窯 招福干支

 

種本  「見るなの花倉」

    新潟のむかし話  不思議さにひきこまれる話 

     新潟県学校図書館協議会編2000年

     朗読動画収録 2020年5月17日

https://www.youtube.com/watch?v=E2JMkQsGkWM&t=138s

ブログ 「」いつまでも花倉に?」

令和2年皐月 きらきらまぶしい日差しに目を細めた日・・

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/05/30/213029

 

令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間 

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works旅の声     http://yuukyuujyou.starfree.jp/works.html

 

屁っこき息子プブー太の語り

越後おとぎ話 第26話 「屁っこき息子 プブー太の語り」

 

おらはプブー太じゃ。おらのかかさは、おらがプブーと屁をこけば、おらの言いたいことは、みんなわかってくれるのじゃ。かかさは、屁っこきよめさまとよばれておるがのう。きいたことあるじゃろ。「屁っこき嫁さ」の話。

おらは、ばさから聞かされてた。

かかさは、嫁に来て、屁を我慢してたら、顔色が青うなってきてしもうたんじゃと。しゅうとめばさに遠慮するなといわれて、たまっていた屁をこいたんじゃ。そしたら、その屁の風で、しゅうとめばさが吹っ飛ばされて、大けがになったんじゃ。ととさが怒って、かかさを里に返しにいったんだども、そのみちすがら、屁の力が役に立つことがわかって、家に戻ってきた。そして、こんだ、らくらくと屁をこける小屋を作ってもらったんだと。

かかさの屁の風で、柿もぎも楽にできるし、浅瀬に乗り上げた船も動くし、畑の大根とりも手よごさんでできるし、うちは、だんだん金もたまってきたんじゃ。うちのもんは、おうように暮らしておったてんがの。

かかさは、長い着物きて、いっつも、ふあふあーとしてたと。そのうち、かかさの顔がしもぶくれになってきおってのう。ばさがいうたそうじゃ。

「よめや、おまえ、また屁をがまんしてないか。顔が少し、ふくらんで青うなってないか?」

「うん、おら、なんだが腹もふくれて重うなってきた。」

「無理するなや。遠慮しねえで、屁こけや。」

「うん、じゃあ、ばさま、おら屁こかしてもらうすけ、わーりろも、そこの石臼にしっかりつかまっていてくんろ。」

ほして、かかさ、ブブ、ブブブ、ブーッて、屁こいたと。ほうしたら、その屁の風が、ものすごくでっこいんだ。ばさは、つかまった石臼といっしょに、ふあふあふあーと、ととさの畑まで飛ばされた。

「どうしたんじゃ、ばさま。久しぶりに飛んだのう。」

「おう。いいあんばいに、飛ばしてもろた。おまえも、そろそろ仕事しまいにして家に帰るか。」

と、ばさがいったときに、かかさが、息をスーッと吸い込んだんで、その風にのって、ととさも、ばさといっしょに石臼に乗って、ストーンと家に戻ってきたんじゃと。

すると、そのとき、

ブブ、ブブブ、ブーッ。

かかさが、また超特大のでっこい屁、こいたんじゃ。ととさとばさが、驚いたのなんのって。聞いたこともない、超特大っぺだったんだと。そしてその屁の風にのって、かかさの腹のなかから、赤子がとび出て来たんじゃ。

ふんぎゃ、プップププー。ふんぎゃ、プップププー。

「おお、赤子なのに、こりゃまた、りっぱな屁じゃ。」

赤子は屁をこきながら生まれてきた。ばさは腰をぬかしたと。ととさは、

「おお、この屁で、こってまた、かせいでくれるりゃ。」と大喜びじゃったと。

それが、おらだ。へっこきがうまくなるように、おらの名前は、プブー太になった。

 

かかさが乳を飲ませてくれると

プップププー、プップププー。

しめが汚れると、

ブッ、ブーッ。ブッ、ブーッ。

おらが、屁を鳴らすたびに、うちのもんは大喜びした。

「さすが、プブー太じゃ。日本一の屁こきになるぞ。」

と、ととさも、おおいばりじゃった。

おらは大きくなった。おらは、生まれたときから、屁を鳴らしているから、口は食べるときだけ使って、話は、みんな屁で用をたしていた。

かかさが

「プブー太や。まんま食べるか?」

プップププー、プップププー。

おらは、腹いっぱい、まんま、食った。

「プブー太や。水くみしてくろ。」

ブッ、ブーッ。ブッ、ブーッ。

おらは、水くみしないで、遊びに行った。

 

ともだちが、

「プブー太や。かくれんぼするか?」

プップププー、プップププー。

おらは、かくれんぼ、大好きじゃ。

「プブー太や。今度は、おまえが鬼じゃ。」

ブッ、ブーッ。ブッ、ブーッ。

おらは、鬼は大嫌いじゃ。鬼にならないで、家に帰った。

 

おらは、プップププーとブッ、ブーッのプブー太やった。

おらは、プップププーとブッ、ブーッと屁は鳴らせるが、屁の風はたいして吹かなかった。

あるとき、おらが一人で留守番していると、

トントン、トントン。

だれか、来たようじゃ。

出てみると、娘っ子が立っていた。

「屁っこきよめさまのお宅は、こちらですか?」

プップププー、プップププー。(ずいぶん大きな、娘っ子じゃ)

「お会いしたいのですが?」

プップププー。(よくみれば、きれいな、娘っ子じゃ)

「今、お仕事ですか?」

プップププー。(かわいいげな顔だ)

プップププー。(それに、声もきれいだ)

「おまえは、プーしかいえないのか?」

娘っ子は、おこっていた。おらは、

ブッ、ブーッ。

「プーだけじゃないぞ。ブーも鳴らせるぞ。おらは、プップププーとブッ、ブーッのプブー太や。」

と言ったつもりだったども、おらの屁は、

プップププー、ブッ、ブーッと鳴るだけだった。

「ははあ。おまえは、屁っこきよめさまの息子のプブー太だな。年はいくつじゃ?」

プー、プー、プー、プー・・

おらは、「今年で、十三になる。」というつもりで、プー、プー、プー、プー・・を十三回鳴らしている途中、娘っ子は口をはさんだ。

「プーとかブーじゃなくて、ちゃんと話してくろ。」

ブッ、ブーッ。(かかさなら、プーとブーで、全部わかってくれるんじゃ)

娘っ子は、おらの屁のプブーに頭にきたようだった。

「おらは、屁っこきよめさまのところに、屁っこき修行にきたんじゃ。よめさまは、いつお帰りじゃ?」

ブッ、ブーッ。(おら、しらね)

 

ちょうど、そこへ、かかさが帰って来た。

「プブー太、今、帰った。」

プップププー。(やれやれ、かかさのお帰りじゃ)

娘っ子が前に進み出た。

「屁っこきよめさま。おらはとなり村から来た、うし子でございます。おらのととさが、申しました。『うし子、おまえは大めしぐらいで、体は大きくなった。これからは、めしを食った分、稼がねばのう。このままでは、ととの稼ぎだけでは、大めしぐらいのおまえを満足に食べさせてやれぬ。おまえほどの体ともなれば、屁もでっこくて力があろう。どうじゃ、屁っこきよめさまのところに弟子入りして、屁っこきの修行をしてくるのじゃ。屁っこき風ができるようになれば、野良仕事が楽になって、食べることも心配いらぬ。おまえは遠慮しないで好きなだけ食べられるようになるのじゃ。』そういうわけで、どうか、屁っこきよめさま。よめさま秘伝の屁っこき術をおらにお授けください。」

と頭を下げた。

かかさは、驚いていた。

「屁っこき術といってものう。ただ、屁をこいているだけじゃがのう。」

「おらは、あんまり大食いなもんで、家を出されました。どうか、よめさまのうちで使こうてくださいませ。」

娘っ子は、最後は涙ながらに頼んだ。

プップププー、プップププー(おらんちに、手伝いがくるぞ。おら、水くみしないでいいぞ。いいぞ)

そして、うし子は、小屋に住み込むことになった。

 

二三日して、家の手伝いの合間に、おととが言った。

「よし、うし子とプブー太の屁っこき合戦をするぞ。」

かかさが、言った。

「うし子。屁こいてみ。」

うし子は、

「へえ。」

と言って、ぽこん とこいた。

すると、庭の松の木が揺れた。

「うし子。なかなかやるの。うし子の屁の風は強くなりそうじゃの。」

かかさは、感心して言った。そして、こんどは、

「プブー太。こいてみ。」

おらは、プップププー、プップププー とこいた。

すると、木に止まっていたフクロウが、昼寝から目覚めて、フフフと笑った。

「プブー太もなかなかやるの。プブー太の屁の風は弱いども、おもしろい、へっこき歌のようじゃのう。」

と、かかさも笑った。うし子も笑った。

おととは言った。

「うし子の屁の風は役に立ちそうじゃの。じゃが、プブー太の屁では、野良仕事では使いもんにならんぞ。」

ブッ、ブーッ。(おらは、なさけなくて、屁だけでなく、涙が出でてきた)

しばらくして、おととが言った。

「うし子は、おらんちのかかさのとこに、屁っこき風の修行にきているから、プブー太、お前は、屁っこき風はうし子に任せて、これから、屁っこき歌うたいになったらどうじゃ。」

「そうじゃ。プブー太は、へっこき歌うたいがいいかもしれんのう。」

かかさも言った。

ととさが言った。

「この山を越えた村に住んでいる屁ふりじさまの屁ふり歌は、それはそれは、みごとなものじゃそうじゃ。おとのさまもたいそう、感心されて、ほうびをたくさんくだされたそうじゃ。どうだ。プブー太、おまえはこれから、修行をして、日本一の屁っこき歌うたいになるのじゃ。」

プップププー。(うん。なるほど。おらは、涙をふいて、決めた)

プップププー、プップププー。(おらは屁っこき歌うたいになる。修行に行くぞ)

「よし、決まった。プブー太は屁っこき歌うたいになるのじゃ。修行に出るのじゃ。さあ、さっそく、屁ふりじさまに弟子入りじゃ。屁ふりじさまのところに行くのじゃ。覚悟はいいか。飛ばしてやるぞ。」

かかさは、大きく息を吸い込んだ。そして、力いっぱい、ブブ、ブブブ、ブーッて、屁こいた。

おらは、かかさの屁の風に飛ばされて、家をあとにした。

風にのって下をみると、ととさと、かかさと、うし子が手を振っていた。

プップププー。(がんばるぞー)

おらも屁の風に飛ばされながら、大きく手を振った。

おらは、日本一の屁っこき歌うたいになって帰ってくるぞ。

プップププー。(おらは、がんばるぞ)

ととさと、かかさと、うし子が小さくなって見えなくなった。

山を越えた。

屁ふりじさまの家はどこだ・・・

おしまい

令和5年 穂実る月 大雨のあと

 

本作品 越後おとぎ話 第26話 

「屁っこき息子プブー太の語り」

箱庭劇場 2023年8月27日収録

                                                                         

作・朗読      楯よう子

出演 

 プブー太   Muggsie made in Korea

 かかさ    ラブラドールレトリバー YOSHITOKU

 ととさ    飛騨さるぼぼ

  ばばさ    干支ねずみ

 うし子    鳴子こけし

 ふくろう   手づくりぬいぐるみ

背景      きめこみパッチワーク    

 

種本  「屁っこき嫁さ」

     新潟のむかし話  おかしくておなかをかかえる話 

     新潟県学校図書館協議会編2000年

     朗読動画収録 2020年2月28日

https://www.youtube.com/watch?v=gIdGflGtdi8

 

ブログ 「放屁力と嫁への敬意」

令和2年如月 感染拡大を聞き重ね着して春を待つ日

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/02/26/224144

 

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ぬっぺらんネズミ経の語り

越後おとぎ話第25話 「ぬっぺらんネズミ経の語り」

 

越後おとぎ話第4話「ムジナぬっぺらんの語り」によれば、化けそこなって顔を失いぬっぺり顔になった団三郎女房のぬっぺらん。団三郎に嫌われ、子どもムジナを伴い信州信濃の里に帰ったが、そこで出会ったしっぺい太郎に一目ぼれ。しかし、村の娘を襲うぬっぺらんに、しっぺい太郎は牙をむく。しっぺい太郎に恋こがれるぬっぺらんは、越後に戻って、顔の張替えのために、毎年の祭りごとにきれいな娘を差し出させることにしていた。今年のまつり。白木のおひつから出て来たのは、娘ではなく、なんとあのしっぺい太郎。ぬっぺらん親子は、命からがら逃げ出して、山の中のばばさの家に転がり込んだ。

 

一方、ばばさは、なくなったじじさのために、せめてお経を覚えたいと思って、旅のにせ坊さんにお経を教えてもらおうとしていた。(新潟のむかし話「ネズミ経」参照)

 

ここに、前作の越後おとぎ話「化け三毛にゃー子の語り」のにゃー子も、川から上がって登場する。

あれからどのくらいの時が流れたのだろう。

しっぺい太郎に噛みつかれたことは覚えている。それでもあたいは、どうやら、まだ生きている。気がつくと、あたりは真っ暗だった。ここはどこだろう。遠くで声が聞こえた。年取ったばばさのようだ。声の方に近づいてみた。壁の穴から光がさしていた。穴から外をのぞいて見た。すると、いきなり大きな太い声が、響きわたった。

オンチョロチョロの穴のぞき~

あたいは、どぎもを抜かれた。いったい何がおこっているんだろう。穴の外に出てみた。坊さんが、ばばさを従えて、お経をあげていたのだった。

ばばさも、坊さんの後について、

オンチョロチョロの穴のぞき~

うやうやしく声を張り上げている。

その声を聞いて、あたいのあとから、子ネズミが穴をのぞいた。すると、

 またオンチョロチョロの穴のぞき~

坊さんが大声で唱えた。子ネズミは、なんだろうと穴から出てきた。

ばばさは、あたいたちを見つけると、

 「おやおや、かわいいネズミさんたちだね。」

とにっこりした。

そうだ、あたいと、子どもムジナは、しっぺい太郎に噛みつかれて、ネズミに姿をかえたのじゃった。あたいの子どもムジナは、子ネズミになって、あたいは、ムジナぬっぺらんから、のっぺらぼーぬっぺり顔の母親ネズミになっていたのじゃった。

子ネズミは、ネズミになったあたいに、

おかかおかか。」

と、まつわりついてきた。

「おお、おお、ぶじだったの。いかった。いかった。」

姿がネズミになっても、おかかのことがわかるのじゃった。

あたいと、子ネズミが喜びあっていると、

何やら話を申されそうろ~

坊さんは、重々しく唱えた。あたいの子ネズミは、坊さんの声にびっくりして、穴の中に逃げ帰った。すると坊さんは、

そのまま、あとへと帰られそうろ~

さらに重々しく唱えた。なんんじゃ、くそ坊主めと思ったが、あたいも、子ネズミを追って穴に戻った。

あとの一ぴきも帰られそうろ~

追いかけるように坊さんの声が響いた。ばばさも唱えた。

あとの一ぴきも帰られそうろ~

ばばさの声は、やさしかった。

ばばさの唱える声を聞きながら、この壁の穴の中が、あたいと子どもネズミの新しい住かになるのだと思った。

 

その日から、山の中の一軒家のばばさの家で、あたいたちの暮らしが始まった。ネズミの暮らしが。

一人暮らしのばばさは、ときどき、あたいたちに野菜の切れ端を投げてよこしたりした。あたいと子ネズミは、野原でエサも探した。

ばばさは、あたいたちが家の中を駆けまわっても、うるさがるふうはなかった。

「おやおや、にぎやかだね。」

と、にこにこしていた。ばばさは、つれあいのじじさをなくしたばかりで、寂しかったのだろう。あたいたちが壁の穴から顔を出すと、

「おや、こんにちは。ネズミさん。」

と、声をかけてくれた。そして、

オンチョロチョロの穴のぞき~

お経を唱え始めるのだった。ばばさは、朝に晩に、日に何度もお経を唱えていた。ばばさが仏壇のまえでお経を始めると、その声に誘われて、あたいは、穴から顔をのぞかせたくなるのだった。あたいは、ばばさの声を聞くと楽しくなる。ポクポクと木魚がなると踊り出したくなる。

またオンチョロチョロの穴のぞき~

木魚の音に誘われて、子どもらも出て来て踊り始める。

あたいと子ネズミが、

楽しいね おもしろいね

とおしゃべりしていると、

  何やら話を申されそうろう~

ばばさのお経は、続いた。

 そして、あたいたちの踊りとおしゃべりがひとしきりすると、

  そのまま、あとに帰られそうろう~

となって、あたいは穴にもどる。

みんなあとに帰られそうろう~

で、子どもらも穴にもどるのだった。

 

あるとき、山の一軒家のばばさの家に、捨て猫にぁ―子がやってきた。飼い主のばあさんに川に捨てられ、ようやく川からはい上がったものの、もう、よれよれになっていた。

捨て猫にゃ―子が、ばばさの家の障子の穴をのぞいたときも、ばばさは、お経を唱えていた。

オンチョロチョロの穴のぞき~

その声で、捨て猫にゃー子は、自分がとがめられたと思った。ぎくりとして、逃げ出そうとした。だが、そのとき、あたいの子ネズミたちが壁の穴から、チョロチョロ部屋に出てきたのだ。チュウ、チュウと可愛げな声が聞こえたものだから、捨て猫にゃー子は、ふりかえって、家の中を見た。

またオンチョロチョロの穴のぞき~

ばばさが唱えると、捨て猫にゃー子は、やっぱり自分がおこられたと思って、ぎょっと立ちすくんだ。

家の中では、子ネズミたちが、いつものように踊り出していた。ばばさは、木魚をたたいて、いい調子。

 ちゅうちゅう ポクポク

 ちゅうちゅう ポクポク 

ちゅう ポクポク

すると、捨て猫にゃー子も、なんじゃ、なんじゃと浮かれ出した。調子にのって、いつの間にか、家に上がり込んで、踊り出していた。

 にゃあにゃあ ポクポク

にゃあにゃあ ポクポク

にゃあ ポクポク

すっかり子ネズミの仲間になっている。

うまい、うまい。

ひとしきり踊ったあとに、

「おまえは、どこから来たんじゃ?」

あたいは、捨て猫にゃー子にきいてみた。

「おら、与作んちのばあさんに追い出されたんじゃ。」

どおりで、よれよれのかっこうじゃ。

何やら話を申されそうろう~

ばばさは、お経を唱えながらも、捨て猫にゃー子のことが気になったらしい。

 そのまま、あとに帰られそうろう~

で、あたいたちネズミ親子が穴に帰ったあと、ばばさは、捨て猫にゃー子に話をしていた。

「おまえ、帰るうちがないなら、ばばんちの猫になるか?」

「うん。なる、なる。ばばんちの猫になる。おら、今まで、さんざんぱら、ネズミやらニワトリやら食うてきたから、もうなんにもいらね。ネズミも捕らねども、ここにおいてくろ。」

それで、捨て猫にゃー子は、ばばんちの飼い猫にゃー子になった。

飼い猫にゃー子は、あたいやあたいの子ネズミを捕って食べようとはしなかった。

なんにも食べね、といっていたが、ばばさは、

「ほーれ、にゃー子、ネズミ餅だ。」

といって、庭のネズミモチの実をにゃー子にあげていた。ネズミ餅を食べ始めると、よれよれだった捨て猫にゃー子の毛は、つやつやとしたきれいな三毛になってきた。

そして、あたいたちの踊りチームに、三毛猫にゃー子も加わった。

ちゅうちゅう ポクポク

  ちゅう ポクポク

にゃあにゃあ ポクポク

 にゃあ ポクポク

 

毎日、ばばさのネズミ経にあわせて、あたいたちネズミ親子と三毛猫にゃー子チームは、楽しく踊り暮した。

おかげで、ばばさは、すっかり元気になって若返ってきた。仏壇の中でじじさもたまげているだろう。

気がつくと、ネズミになっても、のっぺらぼーの、のっぺりだったあたいの顔は、また、いつのまにか、目鼻口がもどってきていた。踊れば踊るほど、くっきりとした目鼻だちになり、あたいは、とうとうネズミ美人になっていた。

 

きょうも、あしたも、あさっても、ネズミ経でネズミ踊りだ。みんなで踊ろう。

そーれ、ポクポク ポクポク

ルルルル ルルルル ルルルルルルルル・・・

オンチョロチョロの穴のぞき~

ちゅうちゅう ポクポク ちゅう ポクポク

またオンチョロチョロの穴のぞき~

にゃあにゃあ ポクポク にゃあ ポクポク

ルルルル ルルルル ルルルルルルルル・・・

何やら話を申されそうろう~

ちゅう ポク ちゅう ポク

にゃあにゃあ ポクポク にゃあ ポクポク

ルルルル ルルルル ルルルルルルルル・・・

そのまま、あとに帰られそうろう~

ちゅうちゅう ポクポク ちゅう ポクポク

みんなあとに帰られそうろう~

にゃあにゃあ ポクポク にゃあ ポクポク

ルルルル ルルルル ルルルルルルルル・・・

 

旅の坊さんの授けてくれたネズミ経。ありがたや、ネズミ経・・・チーン。おしまい

 

令和5年 水無月 

しっぺい太郎は去ったが、ストロベリームーン(6月4日の満月)は見ていた

本作品 越後おとぎ話第25話 

「ぬっぺらんネズミ経の語り」

箱庭劇場 2023年7月22日収録 

https://www.youtube.com/watch?v=9kt4xVNJJvI            

作・朗読     楯よう子

協力       加藤博久

絵        きらら/須崎三十

出演 

  ぬっぺらん  飛騨さるぼぼ

  子ネズミ   沖縄シーサー

  ばばさ    干支ねずみ    

  坊さん    Muggsie made in Korea

友情出演

  にゃー子   リサラーソン

 

種本「ネズミ経」

  新潟のむかし話  おかしくておなかをかかえる話 

  新潟県学校図書館協議会編2000年

  朗読動画収録 2020年5月16日

https://www.youtube.com/watch?v=FdEg3vho48Y

Blog「ありがたやネズミ経」

令和2年皐月 解除といわれても自由になりきれない日々・・

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/05/27/144951

 

令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間 

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The Story of Anesa Who Became a Huge Snake

Do you like ohagi, a Japanese sweet dumpling of steamed glutinous rice covered with sweet red bean paste? I absolutely love ohagi. I can even eat three or four of them.

You might wonder if it would be alright to eat that much. It’s not a problem. It’s alright to eat as many ohagi as you wish. I’m sure that you would be happy if you could eat as many ohagi as you’d like, whenever you’d like. You don’t have to hold back or pretend not to be interested.

In the old days, people were not even able to simply enjoy ohagi. There was once a sad and almost tearful story. Have you heard it?

 

The wife of a man threw away ohagi that had gotten moldy because she didn’t let her brother-in-law eat it. When she was on her way to throw out the ohagi, she was sucked into a pond and transformed into a huge snake. She wondered what to do because she had a newborn baby. She was worried about how she could nurse the baby. She asked her husband to sell her eyes, her huge snake eyes, to buy milk. How pitiful it is to think about the love of this mother who would mutilate herself and lose her own eyesight to feed her baby!

Even though she cannot see her baby, would the sound of the temple bell in the morning and the evening comfort this mother who lost her eyes?

 

The people who read “The Huge Snake’s Eyes” from Niigata’s Folk Tales Vol. 2 shared their comments.

One of them stated, “She was punished by being transformed into a huge snake and losing her eyesight simply because she didn’t give her brother-in-law ohagi. The punishment was too strict, wasn’t it?”

Another commented, “That’s right. Anesa, the wife, blamed herself too much by saying, ‘It was all my fault,’ didn’t she? I wonder what she thinks now?”

Then, I interviewed Anesa, who had transformed into a huge snake in a pond.

I am the huge snake of the pond. I am living quietly at the bottom of the pond. I can hear the temple bell ringing in the morning and the evening. It’s such a pleasant sound. Just hearing that bell makes me happy. I don’t need anything else.

In the past, I used to live in a village. I got married and gave birth to a baby. When my baby was born, I became very hungry.

Being a poor peasant family, we could not usually have a full meal. Since my baby kept crying, I thought that my milk was not enough. But I cannot be the only one to have seconds. The wife of such a poor family must refrain from having seconds.

However, I was looking forward to the next festival day because there’s always a feast on that festive day. On that day, after the autumnal harvest, I made ohagi for the night of the thirteen-day moon. I love ohagi very much. I’m sure there is not a single person in this village who doesn’t like ohagi.

I soaked red beans in water the night before and made sweet red bean paste. I steamed glutinous rice. We were blessed with a good harvest that year. The rice grains were beautiful. The sweet red bean paste and steaming glutinous rice gave off a wonderful fragrance. Oh, yes! I was able to make some really delicious ohagi. Heh, heh, heh!

Offering ohagi to the moon, we had a moon-viewing party. I served ohagi to my aged father-in-law and mother-in-law, as well as to Annyasa, my husband. I myself also enjoyed the ohagi. The moon that night was really beautiful. The thirteen-day moon was a sight to behold.

Later on, my husband’s younger brother, who had been serving as an apprentice to the landlord, returned home. I wanted to serve ohagi to my brother-in-law, so I went to the porch to get the ohagi that we offered to the moon there.

When I saw the ohagi, they started to move out from the bowl. In the light of the thirteen-day moon, a group of ohagi lined up on the porch. What? What? What?

“Hmm? This is strange. Have these ohagi grown legs?”

I went up to the ohagi to take a closer look. The legs, which I thought were the ohagi’s legs, were actually the legs of Fukkero, the frog. (Please refer to “A Jumping Match between a Rabbit and Fukkero” from Niigata’s Folk Tales Vol. 2.)

Fukkero, carrying the ohagi on his back, was hopping along. He was followed by a line of little frogs, which were probably Fukkero’s children. They also had ohagi on their backs.

All the ohagi in the bowl were gone. There was a line of jumping ohagi. Boing, boing! Boing, boing!

“Wait, wait! Where are you going? You’re my family’s ohagi! You’re the ohagi we are going to eat!”

Everyone in the village loves ohagi. I heard that Fukkero, the frog, was no exception. However, these ohagi were for my family! Fukkero, if you love ohagi, why don’t you make some by yourself?

Fukkero and his children just kept hopping along, boing, boing. The ohagi jiggled on their backs.

“Wait, our ohagi!” I chased after them, holding the empty bowl.

Fukkero came to a pond and jumped right in with the ohagi still on his back. Sploosh! The little frogs followed right after him, all with the ohagi on their backs. Sploosh, sploosh, sploosh

“Wait, those ohagi! Those ohagi are for my family to eat!”

I ran desperately to get our ohagi back from Fukkero and his children. I finally caught up to them. I snatched the ohagi from the last little frog in line and stuffed it in my mouth.

Gulp. Gah, gah! It’s stuck!”

I was choking because I had tried to eat the ohagi so quickly.

“My… my… thr… throat!”

I writhed around. Cough, cough.

“Help me! It hurts!”

I was struggling so desperately. Cough, cough.

“It’s so painful. I’m dying!” Cough, cough! Gurgh, gurgh

After a while, I felt relief. I looked around and found myself at the bottom of the pond. I was no longer in pain. But somehow, I had become a huge snake. Looking up to the surface of the pond, I saw Fukkero and his children swimming around. Fukkero has so many children.

“Hey, Fukkero,” I called out to him.

“Hey, Huge Snake. Was the ohagi good? Croak, croak.”

Fukkero seemed to be quite relaxed.

“Fukkero, did you eat the ohagi, too? I asked.

“Yes, I stuffed myself with ohagi for hibernation. My children also ate a lot. Croak, croak.”

I heard a voice in the distance.

“Anesa, Anesa. Where are you?” Annyasa, my husband called out for me.

I poked my head out of the pond. Annyasa was standing at the edge of the pond, holding an empty bowl. He was so surprised to see that I had transformed into a huge snake.

“Anesa, what happened to you?” he said with a tearful face. “I hope you can return to your normal self and nurse the baby.”

“Me, too,” I replied, but no matter how I struggled, I could not take off the skin of the huge snake. I was not able to return to my original form as his wife. I tried to squeeze out some milk but I couldn’t. A huge snake does not have breasts to offer milk.

I said, “I’m not able to produce any milk. Instead, I hope you can buy some milk with these,” and I pulled out my eyeballs and put them into the bowl he was holding.

“Anesa, why did you transform into a huge snake?” he asked me, but I had no idea why as well.

I asked Fukkero why I had been transformed to a huge snake.

“Well, when I jumped into the pond, Mr. Huge Snake, the big boss of the pond, had his mouth wide open. He absolutely loves ohagi. Before I knew it, he had swallowed me up with the ohagi on my back. He swallowed all my little frogs and their ohagi as well. Then you, Anesa, chasing us frogs, were swallowed up last, but you were thrashing so wildly in the huge snake’s belly that he ended up spitting us out. Anesa, that’s when I saw that you had transformed into a huge snake.”

“Well, is that so? Because the huge snake, the big boss of the pond, swallowed me, I transformed into a huge snake?”

Fukkero added, “Anesa, you were transformed into a huge snake to become the new boss of the pond because Mr. Huge Snake, the old boss of the pond was too old.”

“What? I became the huge snake, the big boss of the pond?”

I felt like I was wearing a new, tight-fitting kimono. The skin of the huge snake was so tight that I could not take it off.

My body had become that of a huge snake. I was surprised that I had become a huge snake, the big boss of the pond. Since my body became that of a huge snake, I didn’t have breasts. That’s why I wasn’t able to nurse my baby any more.

 

I heard that Annysa, my husband, went to the market and sold my huge snake eyes for a lot of money. He bought some milk for our baby with that money. It seems that he donated a bell to a temple with the leftover money.

Since I can’t see, I always stay at the bottom of the pond. When I hear the temple bell in the morning and the evening, I know that my child is growing well. That makes me happy. I don’t feel the urge to eat ohagi any longer.

 

It is said that since that time, the huge snake at the bottom of the pond continued to pray for the healthy growth of the children of the village. It is said that every child of the village grew up healthily. Anesa’s baby is also said to have grown up healthily and eventually became a monk serving at the village’s temple where he continued to ring the bell in the morning and the evening.

The End

 

January 2021

In the midst of a cold front

 

Written by Yoko Tate

 

Translated and Recited by Masako Hayakawa

Illustrated by Rino Saito

 

June 2023 recording

 

日本語版 朗読 楯よう子

「大蛇になったあねさの語り」

2021年2月22日収録

https://www.youtube.com/watch?v=McsVBz6-ZJ0

ブログ 令和3年睦月 寒波のなかで

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2021/02/22/221303

 

種本 

「大蛇の目」

新潟のむかし話2 かわいそうでなみだがでそうな話

新潟県学校図書館協議会編2006年

朗読動画収録 2020年7月11日

https://www.youtube.com/watch?v=kgjni8Zluho&t=1s

 

ブログ 令和2年文月 地球は変わりつつあると感じながら

「おはぎが食べたい」

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/07/14/210219

 

 

令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間 

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化け三毛にゃー子の語り

新潟のむかし話2000年「化け猫退治」の伝えるところによると・・・

年とった飼い猫の三毛が、村中のにわとりをとって食うようになり、困り果てたばあさん。せがれに、川にでも捨てるしかないと相談していた。それを聞いていた三毛は、ばあさんを食ってばあさんに化けて、家に上がり込む。気づいたせがれは、村の衆を集めて化け猫を退治した。

となっているのだったが・・・

果たして、三毛は、本当にソバ畑を血で染めて死んでしまったのだろうか?

おら、生まれた時から、与作んち、ねぐらにしている、三毛にぁー子じゃ、にぁ。

子猫ん時、ネズミ、怖かった、にぁ。

ネズミは、 走るの 速えかったども、おら、だんだんネズミ追っかけて、おらがネズミくわえられるようになった にぁ、にぁ。

捕ったネズミ、見せると、ばあさん、喜んだにぁ。

おら、一生懸命ネズミ捕ったにぁ。ネズミ捕り、おもろくなった、にぁ、にぁ。

おら、走るの速くなったなあ。どんどん捕って、食った、にぁ、にぁ。

与作んちのネズミ、一匹もいねなってしもた、にぁ。

ばあさん、おらにソバ団子くれた、にぁ。

そんなもん、うんもねぇ、にぁ。

おら、腹減った、にぁ。もっと、うんまいもんが食いたい、にぁ、にぁ。

おらが寝ていると、夜明けに、ココココ、ココココ、コケコッコー。

うるさい、にぁ。

おらの朝寝、じゃますがんは、どこだ。

ココココ、ココココ。

と、いうとるぞ。あーん。どこだ、どこだ?

ココだというから、おら、行って見た、にぁ。ニワトリ小屋だ。

このニワトリだ、にぁ。

コケコッコー。

ニワトリめ。毎朝、おらの朝寝をじゃまするがんは、許さんぞ。

朝は、静かに寝るもんだ。にぁ、にぁ、にぁーご。

おらが言い聞かせても、ニワトリは聞かね。

ココココ、ココココココ。

黙れ。にぁーご。おらは、にらみつけたぞ。それでも、

ココココ、ココココ。

いうこときかねえ気だな。そんなら、おら、ニワトリ食いたくなった、にぁ。

ニワトリは、バタバタして、足2本で、いいあんばいにネズミより逃げるのおっそいにぁ。食うぞ、食うぞ。

ケッコー、ケッコーいうすけ、食ってやったにぁ。

そんでネズミより、でっこくて、うんまい、にぁ。

おら、食った、食った、にぁ。腹いっぺになった、にぁ。

うんまいから、もっともっと食いたくなった、にぁ。

与作んちの、ニワトリ、もっともっと捕った、にぁ。

もっともっと食った、にぁ。

全部食った。ああ、うまかった。

これで、明日の朝はゆっくり寝ていられるわい。

おらは、すやすや。すやすや。寝とったぞ。

朝になっても、すやすや・・・・

ココココ、ココココ、コケコッコー。

なんじゃまた起こされた。

朝は、静かに寝るもんだ、にぁ、にぁ。

おらの朝寝をじゃまするがんは、どこだ?

与作んちのニワトリは、きのう、みんな食ったぞ。どこだ。

ココココココ、ココココココ。

ココだというから、行って見た。

となりの家じゃ。隣の二ワトリ小屋で鳴いとるぞ。

うるさい、静かにしろ。にぁーご。

おらが、にらみつけても、見向きもしない。

ココココ、ココココ。

黙らんと食うぞ。おらがいうと、

ケッコー、ケッコー。

おお、そうか。

それならばと、おらは食ったぞ。食った。腹いっぱい食ったぞ。

そんで、毎日、隣んちも、そのまた隣んちもニワトリ、捕りに行ったにぁ。

おら、腹いっぺになって、また、食いたくなったにぁ。

いっぺえ食ったら、おら、あたまよくなったぞ。

朝、起こされねえよに、晩げのうちに食っとけば、朝、ゆっくり寝てられっぞ。

おらは晩げのうちに食うことにした。

そうしてよ、毎晩、村でニワトリ狩りしていた、にゃー。

あるとき、ばあさんが与作と話してた、にぁ。

「三毛がニワトリ食うすけ、今に化け猫になるぞ、はよ、川に捨てねばなんね。」

おら、ばあさん、おっかね。だども、憎っくくなった、にぁ。

おら、ばあさん、食いたくなった、にぁ。ばあさん、年とって、杖ついて、3本足でよ、ニワトリより逃げるの、おっせえ、にぁ。

そんで、ケッコーも言わんで、おらこと、にらんだ、にぁ。

おら、ばあさん、食った、にぁ。ばあさん、ニワトリより、でっこくて、食うのに三ぃ晩かかった、にぁ。

そんで、うまけりゃいいが、ばあさん、骨と皮ばっかのもんで、ちーともうまかねえ。おらの腹に入っても、なんじゃ、まだ動いとるぞ。

うう、おら、苦しくなった、・・・ううう・・・にぁ、にぁ・・・腹いたくなった。

そんで、もごもごしとると、おらの手と足も、もぞもぞしてきおったぞ。

なんじゃこれは? おらのくびも顔も、もぞもぞしてきおったぞ。

なんじゃ、なんじゃ。なんじゃー。にあー。

おらが叫ぶと、おらは、ばあさんと合体して、ばあさんに乗っ取られてしもうたんじゃ。おらは、ばあさんに化けてしもた、にあー、あーあー。

そんで、おら、ばあさんになってしもて、にぁ。ばあさんは、おらを入れたまま、らくらくして、うちに帰った、にぁ、にぁー、あー。

「与作、今かえった。」

「おお、ばあさん、おつかれだったの。」

「いやあ、なんだか、急に元気になったわい。」

「そういえば、ばあさん、背がのびて、体が大きくなっているの。若返っているの。どうしたんじゃ。」

「実家でごっつぉになったで。」

「そりゃよかったな。」

「ところで、三毛にぁー子の姿が見えないが?」

「ああ、ばあさん、でかけるまえに、留守の間になにかあるといけないから家のまわりに山芋まいとけといっただろう。そんで、山芋たっぷり。すりおろしてまいたんじゃ。そのあとからかの。三毛がいなくなってしもうたんじゃ。」

そうだ、山芋だ。おらは、気がついたぞ。山芋を、ばあさんに食べさせればいいんだ。

おらは、ばあさんのからだの中から、大声を出した。

「山芋はからだにいいからの、おらも山芋食べようかの。」

与作は、ドンブリいっぱいの山芋を持ってきた。

「ほい、ばあさん、いっぱい食べれや。」

ばあさんは、もたもたしていたが、おらは、ばあさんの内側から手を伸ばした。ドンブリをつかんで、一気に山芋をばあさんの口に流し込んだ。

「ぎゃあー、かゆい。」

ばあさんは叫び出した。

「かゆかゆかゆー。かゆーい。」

ばあさんの、手も口も、のども、かゆかゆになった。

かゆかゆかゆー、げぼげぼげぼ・・

ばあさんは、おらを吐きだした。

「にゃあー。」

「なんだ、三毛にぁ―子。お前は、こんなとこに、いたのか。」

与作はおらを見つけていった。

おらは、山芋まみれで、体中が、かゆかゆになっていたから、与作にかまわず、川に走った。ザブーン。飛び込んだ。

川がおらのからだについた山芋を洗ってくれた。やれやれ。

ところが、岸に上がろうとすると、川の流れが急だった。

おらはどんどん川に流された。

どんぶらこっこ、にぁ、にぁ、にぁ。

どんぶらこっこ、にぁ、にぁ、にぁ。

おらは、ばあさんをやっつけて食ってやったつもりだったけんど、結局、ばあさんから、川に捨てられてしもたんじゃ、にぁー。にゃー、にゃあー。

おしまい

令和5年 弥生 桜が花開こうとする日

本作品 越後おとぎ話第24話 

「化け三毛にゃー子の語り」

箱庭劇場 2023年7月1日収録              

作・朗読     楯よう子

出演 

   ばあさん    干支ねずみ    

   与作      Muggsie made in Korea

   ニワトリ    手作り鍋つかみ

友情出演

   三毛にゃー子 リサラーソン

   ネズミ    干支トラ 他

 

種本  「化け猫退治」

     新潟のむかし話  こわくてふるえる話 

     新潟県学校図書館協議会編2000年

     朗読動画収録 2020年5月15日

https://www.youtube.com/watch?v=OfSHBY6spHs                                                                

Blog 「化け猫の生成」

令和2年皐月 大雨・雷・洪水注意報の夜・・

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/05/20/184745

 

令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間 

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かっかー三枚の守り札の語り

新潟のむかし話2000年「三枚のお札」の伝えるところによると・・・

花摘みに出かけて道に迷った小僧が、一夜の宿を乞うた山の一軒家のばさ。夜中になるとニタニタして、包丁を研ぎ出した。やさしげに見えたが、実は、恐ろしい人食い山姥だった。逃げようとする小僧をつかまえて、小僧のほっぺたやくりくり頭をベロンベロンと舐めだした。なんとか便所に逃れて震えている小僧に、せんちの神さまは、三枚のお札を与える・・・・・

と、なっているのだったが、果たして、三枚のお札は、誰に与えられたものだったのだろうか?

天下り かっかー 鬼婆になっての語り」で、鬼婆が、木のからとに入って目を閉じてから、はや数百年の時が流れていた。

どっこらしょ。わらわは、木のからとから出た。今は、なんどきじゃろう、のう。あたりをみまわしても、しーんとしておるぞ。

「小太郎、小太郎―。」

呼んでみたが、小太郎は返事をせぬ。

やっぱり、わらわが、小太郎を食べてしまったのか、のう。

やれやれ。うかつじゃったのう。

わらわは、うれしくなるとすぐ大口を開けてしまうのじゃ。小太郎を食うてしまうとはのう。まあ、わらわの腹にもどったのだったら、小太郎も、うらんではおるまい。わらわも安心じゃ。小太郎が、わらわの腹にいるとなればな。

外はもう、秋じゃった。わらわは、山で栗拾いをした。栗を煮て食べよう。腹の中の小太郎も喜ぶじゃろう。

ゆんべになって、土間で栗を鍋に入れて煮ていると、

トントン、トントン。

戸を叩くものがおる。

はて、だれじゃろう。

見ると、花束を持った、くりくりあたまの小僧じゃった。

「ばさ、花摘みに出て、日がくれてしもた。今晩一晩泊めてもらわんねろっか?」

「むむむ?お前は小太郎か?かっかーのところに帰ってきてくれたのか?ちと、若返ったようだのう。頭もくりくり坊主にしおって。」

「あーん?こたろう?ん?ん?」

小太郎は変な顔をした。

「まあ、あがれ、あがれ。おまえのうちじゃ。」

小太郎はすごすごと入って来た。小太郎は、いつ、わらわの腹から出たのじゃろう、のう。

「どこに、いっておったのじゃ?」

「おら、寺に預けられておるのじゃ。きょうは、和尚さまにいいつかって、花摘みじゃ。」

「鯖売りはどうなったのじゃ?」

「鯖売り?おら、ずっと寺で修業じゃ。」

「なに?寺で奉公しておったのか?それにしても、よう若返ったものよのう。」

「ばさ、おら、もう寝かしてくろ。」

小太郎は、めんどくさそうにいった。

「おお、寝れ、寝れ。」

わらわは小太郎をふとんに追いやった。

それにしても、おかしな子じゃのう。小太郎は鯖売りになって、塩鯖を持って帰ってきてくれたのじゃったがのう。そうじゃ、かくれんぼをしていて、わららの腹にはいったのじゃ。そして、また、わらわが寝ている間に腹から出て、和尚さまのところに修行にいっていたのかのう。道に迷うてしもうて、歩き回っておったのだ、かっか―の家が見つからなかったんだのう。帰れなくなって、なんぎだった、のう。かくれんぼのやりすぎじゃ。やっとこすっとこ、帰ってこれたのじゃ。よく帰った。でかしたぞ。小太郎。

かっか―の家で、ゆっくり寝てくれ。

わらわは、栗の皮むきじゃ。あした、小太郎が、目をさましたら、食べさせてやろうぞ。

おっととと・・栗の皮むきは、めんどうじゃ。わらわは不器用でのう。

ううう、ううう。皮が硬いのう。切れない包丁じゃあ。わらわは包丁を握る手に力を入れた。

ううう、うう。

すると、ふすまのむこうでも

ううう、うう。

うなり声が聞こえるぞ。

「おにばばじゃ、おっかなーい、おっかなーい。おにばばじゃ。」

小太郎がふすまの穴からのぞいて、ふるえておるのじゃ。

わらわは、栗の皮むき、めんどうでのう。この時には、どうしても歯をくいしばって、髪を振り乱してしまうのじゃ。それで、わらわは、おっとろしいおにばばの顔になっているのかのう。

そのとき、切ろうとした栗が、すべって飛んだ。

びゅっ!

ビシッ!

「いたたたー。」

あッ、なんと、こともあろうに、栗は小太郎の額を直撃。

「かんべん、かんべん。痛かったか。栗が飛んだのう。小太郎、こわかったのか?かっかーがこわがらせたのか?こわがらなくてもいいぞ。この包丁が切れなくて栗が飛んだのじゃ。」

わらわは、包丁を持ったまま、小太郎の頭をなでようと手を伸ばした。

「ひえー。かんべんしてくれ。」

小太郎のからだは、わらわの手が小太郎の頭に触る前に、すっ飛んだ。

「どこに行くんだ。小太郎。」

「便所じゃあ。」

「待て、待て。」

小太郎は外のせんちに入って、しばらく出てこなかった。

「小太郎。まだか。」

「まだ、まだ。」

「小太郎。まだか。」

わらわは、小太郎が迷子にならないように、せんちの前でしっかりと小太郎を待った。小さい時には、ひとりでせんちにいくのを怖がったものよ、のう。

「小太郎、かっかーがここにおるから、心配いらないぞ。ゆっくりでいいぞ。」

「いま、出る。」

小太郎は、せんちから出て来て、

「おら、もう帰らしてけろ。」

小さな声でいった。

「小太郎。栗ご飯食べてから帰れ。」

「おら、食べられね。和尚さまが、ばばに食べられるなといいなさったで。」

「そうか。今夜一晩、かっかーと寝てくれ。」

「おら、もう、ねむたくなくなった。」

そうか。小太郎は、もう赤子でないからのう。寺で修業をしておるのか。

よしよし。和尚さまのところで修業の身じゃあ。いつまでもかっかーのうちで休んでいられんか、のう。修行にもどらねばならぬのか、のう。

夜が明けるのを待てというのにかまわず、小太郎は、暗いうちに家を出た。

いちずな子よ、のう。さすが、てんじゅく生まれのわらわの子じゃ。

小太郎の姿が夜の闇に消えようとしたとき、

そうだ。お守りじゃ。小太郎にお守りを持たせねば。

わらわは、はたと気づいたぞ。お守りじゃ、お守りじゃ。

「待て、小太郎。」

小太郎の姿は、もう見えなくなっていた。

「おーい。待てー。」

わらわは、せんちの神様の守り札を握りしめて、小太郎を追いかけた。

小太郎はこれから、修行じゃ。まだ、あんなに幼い子どもなのにのう。

山越え、川越え、命がけの修行じゃ。

「おーい。小太郎。せんちの神様のお守りじゃ。」

これを持っていれば、命を落とさずにすむのじゃ。山越え、川越え、せんちに落ちずに、かっかーのところにもどれるのじゃ。

小太郎が赤子のとき、わらわは、せんちでふんばった拍子に、便つぼの中にお前を落としてしもうたのじゃ。それを救い上げてくれたのが、せんちの神様じゃった。せんちの神様のおかげて、お前は、かっかーのもとにもどれたのじゃ。それ以来、わらわは、毎日、せんちの神さまにお礼を申し上げておるぞ。

ある日、せんちの神さまが出てきなさって、

「このお札をやるすけ、心配するな。このお札があれば、おまえのこどもは、必ず、無事に帰ってくるぞ。」

といいなさったんじゃ。ありがたや、ありがたや。せんちの神さまの守り札じゃあ。

「さあ、小太郎、せんちの神様の守り札、これを持っていってくれ。」

わらわは、やっと小太郎に追いついた。

しかし、小太郎は、振り返らなかった。

「小太郎、待つんだ。」

すると小太郎は、ぶるっと体を震わせた。小太郎は叫んだ。

「ああ、大山だー。」

突然、小太郎の目の前に、大山がたちふさがった。

わらわは急いで、守り札を小太郎に投げつけた。

「さあー、小太郎、大山を越えるのじゃ。」

小太郎は、ワシワシと必死に山を登った。汗みずくになって、山を越えて走った。はやいのなんのって。すごい。いいぞ。小太郎、その調子じゃ。かっこいいのう。さすが、わが息子じゃ。小太郎はなおも、走った。わらわも走った。

そして、しばらくいくと、小太郎は叫んだ。

「ああ、大川だー。」

ゴンゴン、ゴンゴンと大水が出てきて、ゴウゴウ流れる大川になって、小太郎の前にたちふさがった。

わらわは急いで、守り札を小太郎に投げつけた。

「さあ、小太郎。大川を越えて進むのじゃ。」

小太郎は、ザブザブザブ、ガボガボガボと、大川を渡った。そして、さらに懸命に走った。おお、おお、その調子じゃあ。小太郎は強い子じゃのう。

小太郎。おまえは、大山を越え大川を越え進んでいくのじゃ。大山にも大川にも負けぬ強い子じゃ。その調子じゃ。その調子で進んでいけよ。どんどん、いくのじゃ。どんどん、どんどん。

じゃが、どんどん、調子づいて、せんちの便つぼには、落ちるなよ。

わらわは、3枚目の守り札を、小太郎の背中に向かって投げた。守り札は、小太郎の背中に張り付いた。

「小太郎、せんちの神さまの守り札を落とすな。せんちに落ちるなー。命を落とすでないぞー。せんちの神様の守り札が、お前を守ってくれるぞ。思いっ切り修行を積んで、また、かっかーのところに、もどってくるのじゃ。」

「小太郎、元気でなー。」

「こたろー、こたろー。」

わらわは、いつまでも小太郎を見送っていた。

もう、東の空が明らんでいた。

おしまい

令和4年 晩秋

本作品 越後おとぎ話第23話 

「かっかー三枚の守り札の語り」

朗読動画収録2023年5月28日

https://www.youtube.com/watch?v=10NjzUECBpo

箱庭劇場出演 

ばば  岸正規鳴子こけし    

小僧  Muggsie made in Korea

 

種本  「三枚のお札」

     新潟のむかし話  こわくてふるえる話 

     新潟県学校図書館協議会編2000年

     朗読動画収録 2020年 3月28日

https://www.youtube.com/watch?v=RIeK2ZrIBHo&t=20s

 

Blog 「都会のトイレに三枚のお札はあるか?」

   令和2年卯月 桜咲く中、都市の叫びは聞こえるか?

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/04/07/192510

 

類話  「三枚のお札」     

   読みがたり新潟のむかし話 2000年

   朗読動画収録2023年1月15日収録

テーマ曲 ♪ 「むむむ、三枚のお札」 

今年で終わりだ。大殺界。ご苦労さまです、細木さん。
新年、うちには、熊手もあるよ。平潟神社のお札付き。家内安全よろしくね。
おみくじ引けば大吉だ。豊かな恵、かたじけない。
むむむむむ、むむむむむ 不義で身を過つとな?むむむむ、むむ。
やっと終わりの大殺界。ところが、どっこい。今度は、厄年始まり、八方ふさがり。ギョギョギョのギョ。
お札だ、お札だ、三枚のお札。出雲、住吉、白山さまよ。山越え、川越え、火遊びしない。悪運さよなら、よろず神様、よろしくね♪  お願いね♪
https://www.youtube.com/watch?v=zIwYhB3GfGs

 

令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間 

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食うぞあねさの語り

目が覚めた。

がぉーーと、いつもの朝の遠吠え・・・吠えたつもりだったけど・・・

ふぁーあ。

あれ?変だ。

もう一回やってみた。朝の遠吠え・・・

ふぁーあ。

やっぱり、がぉーになっていないよ。今朝は変だ。

わらわは自分の口を触ってみた。

あれ?耳まで裂けているはずの口が、おちょぼ口になっているよ。

顔を触ってみた。あれ?つるつる、ふっくらほっぺになっているよ。がさがさじゃない!しわになってない!

じゃあ、髪の毛は?針金みたいなまっ白のザンバラ髪が、しっとり、しなやか。長い黒髪になっている!

あっ、そうか。わらわは、今朝は、冬眠から目覚めたんだ。

たっぷり冬眠すると、おっとろしい鬼婆の顔や髪の毛が、すっかり若返って、器量よしのあねさにもどってるんだ。そうか。うふふふ。

さあ、春だ、春だ。

けど、わらわは、まだ眠たくてぼんやりしていた。

村まで歩いてきたよ。どこだ、どこだ。ここはどこだ。

そろそろ、お仕事だよ。

とんとん。戸をたたいた。

「旅のものです。今晩一晩、泊めてくださいな。」

出て来たあんにゃさは、わらわを見ても逃げ出さなかった。おとなしそうな、いいあんにゃさだ。ふふふふー。

「おれのとこは、びんぼうだから、まんまもだせねえぞ。」

あんにゃさは、わらわを見て、まぶしそうな顔をしていった。

「どこでもいいから、おいてくらっしゃれ。まんまなんか、ちっとも食わんでいいから。」

うまいこと、家に上がり込んだ。そうして、また眠りこけた。

次の日、あんにゃさは、あきれていた。

「おまえさん、いつまで寝ていなさる?」

えっ、そんなに寝てたかな・・

「寝るなら、屋根裏部屋で寝てくれ。」

寝てくれといわれて、わらわは屋根裏部屋に上がって、また寝てしもた。

冬眠から覚めたばかりだと、眠ったくて、眠ったくて、いくらでも寝てしまうのだったよ。

ぐーぐー。すやすや。ぐーぐー。すやすや。

 

目が覚めた。

ふあーあ、ふあーあ。

よし、がぉーでないぞ。わらわは器量よしのあねさだ。

うっかり寝続けていて、婆になっていたことがあったなあ。あんときはあわてた。仕事がやりにくくなるからな。

さあ、そろそろ働かないと、秋になってしまうよ。

 

あー?なんだ?いい匂いだ。屋根裏から、下の土間をのぞいたよ。

あんにゃさが、まんまを炊いてるぞ。まんまが炊ける匂いだ。いい匂いだなあ。それにしても、ずいぶんでっかい釜だ。びんぼうだっていっていたのに釜はでかいぞ。

あんにゃさは、にぎりめしを作り始めたよ。いったい、いくつ作るんだ。はんぎりおけに、にぎりめしの山ができた。わらわの分もにぎっているんだな・・・。よし、よし。

あれれ・・あんにゃさは、ひとりでもりもり、食べ始めたよ。

もりもり、もりもり・・

「うんめえ。うんめえ。これでやっと食うたような気がする。」

うまそう・・わらわにもおくれー。あんにゃさー、でっこいにぎりめし・・ほしいよ・・

ほしいよ・・・わらわの口はよだれを垂らしながら、どんどん前に突き出た。

にぎりめしほしいよ・・・

ぎゃあーー。ドデーン。

わらわの口が前に突き出すぎて、屋根裏から転げ落ちたよ。

「いたたた・・・」

「どうしたんだ?むしゃ、むしゃ・・・」

あんにゃさは食べるのに夢中で、わらわが屋根裏から落ちたの、気がつかないのか?

まだ食べているよ。

「おまえさま、びんぼうだからまんま出せねえとかいうて、一人でそんなに食べるのか?」

「ああ。おれ、にぎりめし、うんまいからなあ。もりもり、むしゃむしゃ。」

「わらわにも、食べさせておくれでないかえ。」

「おまえさんの分はなーい。もりもり、もりもり・・・」

「にぎりめし、まだ、あるじゃないか。」

「これはおれの昼飯だー。むしゃむしゃ。」

「わらわにはくれない気だな。」

いいあんにゃさだと思ったのに、どけち。

「ああ。あねさの分はなーい。」

むしゃむしゃ。もりもり。

「あねさ、そろそろ帰ってくれないか。」

そら、きた。わらわは、おちょぼ口が大きく裂けないように気をつけながら、かわいげにいった。

「わらわは、いま屋根裏から落っこちて足を痛めてしもた。歩けないよ。」

「おまえさんの家はどこだ。」

「山の岩屋だよ。」

「いつまでもおれんちにいられても、めしはでないからな。」

「じゃあ、あんにゃさが、岩屋まで送っておくれー。」

わらわは、器量よしのあねさのままで、いい終えた。

あんにゃさは山仕事のついでに、わらわを岩屋まで送ってくれることになった。

しめしめ。いい調子。

あんにゃさは、残りのにぎりめしを頭にくくりつけた。わらわはあんにゃさの背中に飛び乗った。

えいこらどっこい。えいこらさっさ。出発じゃ。

いひひひ。いいぞ、いいぞ。あんにゃさは、にぎりめしをたっぷり食べたなー。わらわにくれなくたって、いいさー。どーせ、あんにゃさの腹の中に、にぎりめしがたっぷりはいっているからな。

うひひひひ。うれしいな、うれしいな。岩屋に帰って、早く食べたいな。

ん?あんにゃさは力持ちだな。はやいぞ、はやいぞ。風を切って飛ぶように走ったよ。

わらわは振り落とされないように、あんにゃさの背中にしがみついていた。

このあんにゃさ、なかなかやるわい。役に立たちそうだ。すぐに食べるのはもったいないかな。しばらく下男にして使ってやってもいいぞ。

そのとき、どんどん、どんどん。

わらわの頭に、なんかぶつかってきたよ。なんだ?柔らかいよ。あっ、あんにゃさの頭にくくりつけられたにぎりめしだ。どーうれ、どれ。ちょっと食べてみてやろうかな。

わらわは、あんにゃさの背中でにぎりめしを食べたよ。むしゃむしゃ。

「あー、うんまい、うんまい。にぎりめしは、うんまいもんだなあ。」

すると、いきなり、あんにゃさは、どっと、止まった。

「それは、おれの昼飯だ。」

わらわは、にぎりめしを食べたから、口が広がって、もうおちょぼ口でなくなっていた。まずいぞ。正体、ばれるぞ。わらわは、がおーといいそうになるのをこらえて、口を押さえながらいった。

「痛いよ、痛いよ。足が痛みだしたよ。早く帰りたいよう。」

わりとかわいい声でいえた。

「あんにゃさ。足が痛いよう。急いでおくれ。」

こんどは、あんまりかわいい声でなくなってきた。

あんにゃさがふりかえったとき、わらわは、もう口が裂けてきて器量よしでなくなっているから、顔を手でおおった。

「あねさ、泣いているのか?そんなに痛いのか?」

「えーん、えーん。」

あんにゃさにいわれて、急いで泣きまねをした。

だども、泣き声もかわいい声でなかった。

「だいぶ痛いのか?あっ、あそこに菖蒲が生えている。菖蒲をとってきてやるよ。」

「えっ、菖蒲とな。」

わらわは菖蒲は大の苦手なのじゃ。刀の刃のようにするどく立っていて、こわいじゃないか。

「あんにゃさ、菖蒲はいいよ。菖蒲は嫌いじゃ。それより、はよう、うちに帰してくれ。」

と叫んだ。

「なにいっているだ。菖蒲を持って帰って、うちで菖蒲湯に入れ。足の痛いのがなおるぞ。」

そういって、あんにゃさは、菖蒲をとってきた。

ぎゃおー。

わらわが叫んでいるのにかまわず、あんにゃさは、菖蒲を一束にして、わらわにくくりつけた。

わらわは、

「助けてー、菖蒲こわいよー、わらわの背中が切れるよう。」

と叫んだが、あんにゃさは、ちっとも聞いてくれない。そのまま、わらわと菖蒲を背中にしょって走った。

わらわはあんまり叫んだら、口が裂けてきて、おっとろしい鬼婆の顔になってくるぞ。

そうとも知らないで、あんにゃさは、風を切って飛ぶように走り続けた。

「わらわのからだから菖蒲とってくれー。菖蒲捨てろー。」

何度言っても、あんにゃさは聞いていない。夢中に走り続けている。もうだめだ。岩屋までいかないで、ここであんにゃさを食らうしかない。わらわが、がおーと叫ぼうとしたとき、

そのとき、あんにゃさは、いきなり、どっと、止まった。

何か見つけたようだ。

「あっ。ヨモギだ。」

そして、あんにゃさは藪に入って行った。

「きれいな餅草だ。」

わらわをおぶったまま、ヨモギを摘み始めた。

「ぎょーえー、菖蒲の次はヨモギだと。やめてくれ。臭い臭い。臭いじゃないかー。」

わらわは、ヨモギは、だいだいだーいの苦手なのじゃ。

「嫌な臭いがするじゃないか。苦しいじゃないかー。」

わらわが叫んでも、あんにゃさは平気な顔してヨモギを摘みながらいった。

「あねさは笹団子つくらないのか?このヨモギでいい笹団子ができるぞ。」

ヨモギは苦手なのじゃ。ヨモギを捨ててくれー。ヨモギから離れてくれー。」

「なにいっているだ。あねさは笹団子、食べないのか?にぎりめしもうんまいが、笹団子もうんまいぞ。」

「ん?笹団子とな?笹団子は、にぎりめしよりうんまいのか?」

「あねさは笹団子、食べたことないのか?」

ああ、わらわが、冬眠の前に食べたのは、塩鯖と牛だったかなあ。米のあったかいまんま食べたのも、そういえば何百年ぶりになるかのう。あんにゃさのにぎりめしはうんまかったのう。わらわは笹団子という食いもんは食べたことないぞ。それはあんにゃさよりうんまいもんかのう?あんにゃさもうまげだがの。あんにゃさがうまいというからには、笹団子は、あんにゃさより、うんまいもんじゃろうかのう。

「あんにゃさが笹団子を作るのか?」

「いやあ、おらとこのかかさが作ってくれる。」

「ふーん。かかさがのう。ヨモギ、臭いだろうに?」

「団子に入れてこねれば、餅草はいい匂いになる。」

ヨモギは、苦いじゃろう?」

「笹団子は苦くなんてないぞ。あんこも入っているから、甘いぞ。いい味になる。ヨモギの入った餅の中にあんこを入れて笹の葉で包むんじゃ。越後のかかさはみーんな笹団子作りの名人じゃがのう。おらとこのかかさの笹団子が一番うまいんじゃ。」

「ふーん。ヨモギがいい匂いで、いい味になる?」

「そうじゃ、そうじゃ。かかさが餅に入れてこねれば、餅草はいい味になるんじゃ。」

「そういうもんかのう・・。うまいのかのう?わらわもあんにゃのかかさの作った笹団子、食べてみようかの。」

「この先に、かかさのうちがあるから、寄ってみるか?」

「おー。みるみる。」

わらわは、笹団子が食いたくなった。

「よーし。食うぞ。食うぞ。笹団子。」

「よーし。おれも食うぞ、笹団子。あねさといっしょに。」

おお、あんにゃさもいっぱい食ってくれ。

あんにゃさは、またヨモギを摘んだ。そして、わらわに縛りつけられている菖蒲の上にヨモギもくくりつけた。わらわは、ヨモギの臭いに顔をしかめて、もっと顔がくずれた。だいぶ顔がくずれてきたが、まだ半分はあねさの顔のままだ。

わらわは、あんにゃさの背中におぶわれて、あんにゃさのかかさの家に寄ることにした。

まず、笹団子を食ってみよう。そして、笹団子の味をみてから、あんにゃさを食ってもいいがの。

あんにゃさは、うんまいにぎりめしをたーんと食べてるから、うんまいぞ。うひひ。

そんで、笹団子がうんまかったら、うんまい笹団子を食べたあんにゃさは、もっとうんまくなっているぞ。

うっひひひー。あんにゃさ、笹団子、たーんと食べてくれ。

「食うぞ、食うぞ、笹団子。」

わらわはあんにゃさの背中におぶわれながらいった。

「食うぞ、食うぞ。かかさの笹団子。」

あんにゃさも、走りながらいった。

あんにゃさは、にぎりめしも笹団子も好きなんだな。みーんな、いっぱい食ってくれ。そして、あんにゃさも、もっともっとうんまくなーれ。

うひっひひーだ。

あんにゃさは、わらわと菖蒲とよもぎをしょって、風の中を走った。

風の中を走るのはきもちよかった。

わらわは菖蒲で背中が切られたりしなかった。ヨモギの匂いも気にならなくなってきた。

あんにゃさは、力いっぱい走った。あんにゃさの汗が飛んで風に流れた。

わらわのよだれも風に流れた。

かかさの家が見えてきた。うふふふ。

おしまい

令和4年 今年の墓参りもリモートで

本作品  越後おとぎ話22話 「食うぞあねさの語り」

     朗読動画収録 2023年4月27日

箱庭劇場 出演

     あねさ    京都人形

      あんにゃさ  Muggsie made in Korea

      にぎりめし  アーモンドボール

     ショウブ   高知家 にら

     ヨモギ    グリーンプラント中越 クレソン他

       

種本  「食わず嫁さ」

     新潟のむかし話  こわくてふるえる話 

     新潟県学校図書館協議会編2000年

     朗読動画収録 2020年 3月6日

https://www.youtube.com/watch?v=vgum6OibvAY&t=48s

 

Blog  「鬼婆はきれいな女になりたがる?」

令和2年弥生 かい巻きを着て例年とは違う3月

https://yuukyuujyou.hatenablog.com/entry/2020/03/09/144047

 

類話  「くわずよめさ」

     読みがたり新潟のむかし話 2000

     朗読動画収録 2023121日収録

https://www.youtube.com/watch?v=brgDEDTddqo

テーマ曲 ♪ 「おにぎりモリモリ」

見たね。あたしの正体。そうさ、あたしは、大食い、モリモリ。

おにぎり1個じゃ足りないよ。2個でも3個でもまだ足りぬ。

20個、30個作ろうじゃないか。

夜中に食うよ。がっつり食うよ。一升食うよ。ばさでも食うよ。モリモリモリモリ。

腹が減るんじゃないんだよ。頭がからっぽ。からっぽ。

からっぽ頭、おにぎりほしい。ばさの頭はからっぽ。

おにぎり、おにぎり、もっと食え。

あたしの頭、もっとよくなーれ。モリモリモリモリ。

 

 

令和からの紙芝居と語り 悠久城風の間 

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